クロスゲージ

1998/08/05 GAGA試写室
キーネン・アイボリー・ウェイアンズが製作・脚本・主演。
軍隊版『ニキータ』『逃亡者』『レオン』。by K. Hattori


 『グリマーマン』でスティーブン・セガールとコンビを組んだキーネン・アイボリー・ウェイアンズは、自分で映画やテレビ番組をプロデュースし、脚本を書き、監督も出来ると言う才人です。アメリカではコメディー系統の作品で知られているようですが、日本ではやはり『グリマーマン』の印象が強い。そんな彼がプロデュースと脚本を担当し、自ら主演したサスペンス・アクション映画が、この『クロスゲージ』です。

 湾岸戦争の際、上官を射殺した主人公ジェームズ・ダンは軍法会議で死刑判決を受ける。しかし彼は死刑囚監房への移送中、ケイシー中佐率いる「ブラック・シープ」という政府の秘密組織に救出される。ブラック・シープは死刑判決を受けた元囚人たちを中心とした組織で、合衆国に敵対する個人や組織を抹殺するのが役割。中佐はダンに、そのまま死刑になるか、自分たちの仲間になって働くかの二者択一を迫る。ダンには最初から、まともな選択など許されていないのだ。死刑囚を政府の暗殺者として働かせるというアイデアは、リュック・ベッソンの『ニキータ』にもあったものだ。

 ダンに与えられた任務は、退役軍人病院の開設式に大統領夫人を出迎えた大手製薬会社社長、ビッカートを狙撃すること。しかしダンが引き金を引く前に、ダンの凝視するスコープの中で大統領夫人が倒れた。ダン以外の何者かが、大統領夫人を撃ったのだ。やがてダンは、自分が暗殺犯の身代わりとして、作戦に加えられていたことを知る。誰が何のためにファーストレディーを撃ったのか。自分を罠にかけた黒幕は誰だ。物語はここで『ニキータ』路線を離れ、逃亡者が真犯人を追う『逃亡者』路線に変更される。いや、逃亡しているのが凄腕の軍人という点では、むしろ『追跡者』に近いかな。映画の中には、『レオン』を思わせる場面もあるなど、過去のアクション映画から「いいとこどり」をしている。監督は『バーブ・ワイヤー/ブロンド美女戦記』のデビッド・グレン・ホーガン。そういや『バーブ・ワイヤー』は名作『カサブランカ』の翻案だった。もともと引用や翻案が得意な監督なんですね。

 脚本はそつなくまとめられていて、主人公が罠に落ちる様子も、その罠から抜け出す様子も無理がない。特に、主人公を陥れる罠の周到さには舌を巻く。よくよく考えると、「それじゃ後から困るでしょ」という点もあるけれど、映画を観ている間はそれをまったく感じさせません。次から次に襲ってくる危険に、手に汗握ります。

 暗殺グループのリーダー格である、ケイシー中佐ことアダム・ウッドワード将軍を演じているのは、『レインメーカー』の弁護士役が記憶に新しいジョン・ボイト。この人は、悪役を演じると最高ですね。あの目でにらまれただけで、小便ちびりそう。主人公の最後の頼みの綱であるCIAの副長官ラックミルを演じるのは、ベテランのポール・ソルビノ。ふたりの貫禄が、とかく跳ねっ返り気味のこの映画を、横からがっちりと支えています。

(原題:MOST WANTED)


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