相続人

1998/08/06 ヤマハホール(試写会)
グリシャムの書き下ろし原案をロバート・アルトマンが映画化。
この邦題はネタバレすれすれです。by K. Hattori


 ジョン・グリシャムが映画用に書き下ろしたオリジナル・ストーリーを、ロバート・アルトマン監督が映画化。物語の舞台は、ジョージア州サバナ。クリント・イーストウッドの『真夜中のサバナ』にも登場した、アメリカ南部の美しい町です。この町で弁護士事務所を開いているリック・マグルーダーは、過去8年間、法廷で負け知らずの敏腕弁護士。彼は偶然知り合った女性マロリー・ドスと深い関係になりますが、彼女がじつの父親にストーキングされていることに同情し、裁判所に父親の身柄拘束と精神病院への強制入院を勧告させます。ところが父親は、仲間たちの手助けで病院を脱走。マロリーは命を狙われ、マグルーダーの子供たちにも危険が迫ってくる。マグルーダーはマロリーと自分の子供たちを守るために、彼女の父親を見つけ出そうとするのだが……。

 マグルーダーを演じているのは、『ハムレット』のケネス・ブラナー。マロリーを演じているのは、『シンドラーのリスト』のエンベス・デイビッツ。マロリーの父親役として、ベテランのロバート・デュバルが顔を見せている。その他、マグルーダーの助手ロイス役にダリル・ハンナ、私立探偵クライド役でロバート・ダウニーJR.、マロリーの元夫ピート役でトム・ベレンジャー、マグルーダーの元妻リアン役でファムケ・ジャンセンが出演しています。出演者だけを見ると、すごく豪華。

 この映画は『ザ・ファーム/法律事務所』から何本も作られて来たジョン・グリシャム原作映画の中で、かなり異色のものになっている。まず第1に、この映画には原作小説がなく、グリシャムが初めて映画用に書き下ろしたオリジナル・ストーリーに基づいているということ。もうひとつは、この映画が「法廷物」ではないということ。主人公が弁護士という点がグリシャムぽいかもしれないけど、それ以外の面では完全なミステリー・アクション。「グリシャム原作」と銘打たなければ、誰の原作だかわかりません。これって本当にグリシャムが物語を書いたのか。案外オリジナルの脚本をグリシャムに見せ、「グリシャム原作」というお墨付きだけ貰ったんじゃないだろうか。彼の原作は、それだけで客が入るもんね。

 物語自体はそれなりに面白いのですが、邦題が『相続人』なので、映画の途中である程度先の展開に目鼻がついてしまうのは残念。『依頼人』『原告側弁護人』などと並べると、『相続人』はいかにもグリシャムらしいタイトルですが、これはほとんどネタバレだよ。邦題はもうちょっと考えて付けてもらいたかった。

 グリシャム原作映画は、ほとんどがアメリカ南部を舞台にしている。でもこの映画からは、グリシャム映画に不可欠な南部らしさが感じられない。ケネス・ブラナーがどんなに野暮ったい格好をしても、ジョージア州サバナの田舎弁護士には見えないだよね。アシスタントがダリル・ハンナだという点が、それに拍車をかけている。この映画を観ると、イーストウッドの『真夜中のサバナ』がいかに素晴らしいかがよくわかります。

(原題:THE GINGERBREAD MAN)


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