ラブ&デス

1998/08/07 日本ヘラルド映画試写室
初老の英国紳士がアメリカのB級アイドルに恋をするコメディ。
ゲイムービーというのとは、ちょっと違う。by K. Hattori


 主人公ジャイルズ・デアスは、現代イギリスを代表する小説家。古き良き英国紳士の生活を守り、彼の書斎や住まいには、ワープロなし、テレビなし、留守電もファックスもなし。長年連れ添った妻を亡くした後は、メイドに身の回りの世話をさせて、自身は執筆に専念する毎日。作品は本当の読者にそこそこ売れれば結構という信念からか、自作の映画化には消極的だ。そもそも彼は、ここ何十年も映画を観ていない。だが古くからの友人に「E. M. フォースター原作の映画はなかなかいい」と言われたことから、ほんの気まぐれで映画館に足を踏み入れる。しかしそこにかかっていた映画は、アメリカ製のB級青春映画『ホットパンツ・カレッジ2』だった。彼は入るべき映画館を間違えたのだ。自分の誤りに気づいたデアスは席を立とうとするが、その時たまたまスクリーンに映し出されたひとりの青年を観た瞬間、彼の人生は大きく変化し始める。それは運命の出会だった。

 老紳士が美青年に恋する話です。試写の案内状や資料には、盛んに『ベニスに死す』の現代版であるかのような文字が踊っていた。当然シリアスで重厚な作品なのかと予想していたら、意に反してこれはコメディでした。格調高いキングスイングリッシュを話す老紳士が、名もないB級青春スターに夢中になるというギャップが面白い。ひいきの俳優は、ロングアイランドに住むロニー・ボストック。デアスは映画雑誌やティーン向けのアイドル誌を買いあさってロニーに関する記事を集め、専用のスクラップブックを作り、プロフィールを暗記し、テレビとビデオを購入して出演作のビデオを何度も繰り返して鑑賞し、映画の中でロニーがピザ屋の店員をしていれば、宅配ピザも恐る恐る食べてみる。デアスがロニーの写真が載っている雑誌を買おうとするシーンは、まるで中学生がこっそりエロ雑誌を買おうとするがごとき様子で、観ているこちらまでドキドキし、ニヤニヤさせられてしまった。当然『ホットパンツ・カレッジ2』もリピート鑑賞。講演を頼まれても、話は文学の話から脱線して映画の話になってしまう。寝ても覚めても、頭の中はロニーばかり。デアスは、ロニーの魅力にどっぷりとはまってしまったのです。

 あまりに様子が変わってしまったことから、友人に休暇を取ることをすすめられたデアスは、迷うことなく、ロニーの住むロングアイランドへ向かう。そこからは、デアスがいかにしてロニーの住まいを見つけ出すかというストーカー的興味と、おかたい英国紳士がアメリカの田舎町で繰り広げる文化ギャップが見もの。おくてで控え目な性格かと思われていたデアスが、意外に大胆な行動をとるあたりにはビックリさせられてしまいました。

 デアスを演じているジョン・ハートが最高。立ち居振舞いがじつに上品で、ちゃんと英国人作家に見えます。B級アイドルのロニーを演じているのは、『ビバリーヒルズ青春白書』などで実際にB級アイドルをしていたジェイソン・プリーストリー。このキャスト、最高です。

(原題:Love & Death on Longisland)


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