Beautiful Sunday

1998/08/14 シネカノン試写室
小さなアパートを舞台にした、奇妙で、不思議で、ちょっと恐い話。
監督は『夏時間の大人たち』の中島哲也。by K. Hattori


 異色ホームドラマ『夏時間の大人たち』が一部で大ウケした、中嶋哲也監督(本職はCMディレクター)の長編第2弾。東京郊外にある1件のアパートを舞台に、売れないシナリオライターとその妻、奇妙な大家、ストーカーに追われるOL、ガリベン小学生とその母、時代遅れの殺し屋、ナンチャッテおばさんなどが、各人なりの小さなドラマを織り成して行く。それぞれの人物が、どこにでもいそうな生活臭をプンプン漂わせているものの、やっぱりこれはかなり奇妙な人々で、探してもそうそう見つかりそうもないような人々になっている。ましてやそうした奇妙な人々が、ひとつのアパートに大挙して暮らしているという奇妙さ。奇妙さの集積が、個々の奇妙さを打ち消して、かえって全体がリアルに感じられてしまうという、不思議な感触が味わえる映画です。

 各部屋の住人たちのドラマが、数珠つなぎに登場する構成になっていて、全体を貫く大きなドラマというものは存在しない。といって、各部屋ごとのオムニバスでもなく、それぞれの挿話がゆるやかなつながりを保ちながら、ある日曜日の朝から月曜の朝までの1日を形作っている。ものすごくルーズなグランドホテル形式とでも言うのでしょうか。これだけの人物が揃っていれば、当然グランドホテルにするだろうと観客を期待させておいて、それを最初から裏切ってしまう作品です。

 登場人物たちのエピソードを数珠つなぎにする構成は、前作『夏時間の大人たち』でも見られたものなので、中島監督はこうしたスタイルが好きなのかもしれない。CMでは15秒や30秒という短い時間で濃密なドラマを作り出しますから、それがいくつも連なって映画になるという発想は悪くないと思う。ただ前作では主人公である小学生の目を通して、大人たちの奇妙な生態を描くという固定した「視点」があったのに、今回はそうした中心がないため、全体の印象はやや散漫になっている。主役は永瀬正敏演ずるシナリオライターということになっていますが、これは演じている役者の格と、登場場面の比率からそうなっているだけで、彼が映画全体を引っ張っているわけではない。彼のポジションは、他の登場人物と基本的には横並びの関係にあります。役者としては山崎努のほうが上なので、まかり間違えば、山崎努主演映画のようになってしまった可能性さえあります。

 映画の中で一番面白いシーンに永瀬正敏が登場しないことも、彼を影の薄いものにしている。それはナンチャッテおばさんことヨネヤマママコがドレスアップして、屋上で「セ・シ・ボン」を歌う場面なのですが、永瀬正敏と尾藤桃子が演じている渋谷夫妻は、その頃ポルシェの男に追いかけられているのです……。徹底したアンチ・クライマックス主義。はぐらかしの極致です。

 永瀬正敏はほとんどテレビに出ない、日本では珍しい映画俳優ですが、彼を映画で観たのは『誘拐』以来かもしれない。相変わらず小粒の映画スターなので、今回のような役をやると、すっかり個性が埋没してしまいます。


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