落下する夕方

1998/08/17 松竹第1試写室
原田知世・渡部篤郎・菅野美穂主演のラブストーリー。
これが単館公開とはもったいない。by K. Hattori


 原田知世主演映画をスクリーンで観るのは、11年前の『私をスキーに連れてって』以来です。彼女はその後も『満月/MR. MOONLIGHT』や『結婚』などでヒロインを演じているようですが、僕はこの2作を観ていない。『水の旅人/侍KIDS』や『スペインからの手紙/ベンポスタの子供たち』『あした』『傷だらけの天使』は観ていますが、これらの映画の原田知世は、ヒロインというより「重要な脇役」程度の位置付けです。最近はもっぱらCMタレントとしてお茶の間で知られていた女優ですが、彼女も30歳を過ぎて、しっとりとした大人の女を演じられるようになったんですね。セクシャリティを感じさせないマドンナ的役柄が続いていたので、今回のような等身大の役は新鮮です。彼女自身「この作品は、女優としての私の第二章の始まり」と語っているそうです。原田知世の今後の活躍を祈りたい気持です。

 主人公は原田知世演じる坪田リカ28歳。彼女は4年間一緒に暮らしてきた恋人の薮内健吾から、別に好きな人が出来たからと突然別れを告げられて戸惑います。別に喧嘩をしたわけでも、憎み合っているわけでも、互いに飽きてしまったわけでもない。リカは健吾が出て行った部屋の中で、ボンヤリとひとりの時を過ごしている。心のどこかで、こうして待っていれば健吾が戻ってきてくれることを期待しているのです。ところが彼女の部屋に転がり込んできたのは、健吾が好きだという相手、華子だったのです。突然目の前に恋敵が現れたことで動揺するリカは、勝手に同居を始めた華子の天真爛漫さに、次第に引きつけられて行くのです。

 ふたりの女の間で揺れ動く健吾を演じていたのは、『スワロウテイル』『愛する』の渡部篤郎。リカと健吾を翻弄する華子を演じているのは、僕の贔屓女優である菅野美穂。この映画では、菅野美穂の演技に注目してもらいたい。ともすればこの役は、自分勝手で周囲を振り回すだけのワガママ女に見えてしまいそうですが、菅野美穂が演じると嫌味がなくてじつにいい。華子はワガママなんじゃなくて、生まれたばかりの赤ん坊がそのまま大きくなってしまったような自然児なのです。『エコエコアザラク』で主演の吉野公佳を食ってしまった菅野美穂は、今回の映画でも主演の原田知世を食ってしまう熱演。ヌード写真集がらみでドタバタしていたときは、ファンのひとりとして本当に心配しましたが、今回の役はそんな過去も全部演技の肥やしにしている感じです。彼女はこれから、もっとすごい女優になるよ。本当はもっとたくさん映画に出て、カメラの前で磨きをかけるべきなんだけどね。今の映画界じゃ難しいかな……。

 主人公が恋を失うプロセスを、ていねいに描いた作品です。中村由紀江の音楽もいいムード。脇の出演者も豪華だけど、ガチャガチャしないのは上手い。ただ、全体にカメラのフォーカスが浅いのは気になる。人物を前後に配置した縦の構図になると、フォーカス送りが気になって物語に集中できなくなる部分があった。


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