フラワーズ・オブ・シャンハイ

1998/08/19 松竹第1試写室
ホウ・シャオシェン監督が19世紀末の上海にあった娼館を描く。
当時の風俗を再現したのは見事だが……。by K. Hattori


 今や台湾映画界の巨匠になったホウ・シャオシェン監督が、松竹と共同で製作した映画です。製作総指揮が奥山和由のシネマジャパネスク作品として企画されていた映画で、主演女優のひとりとして、奥山作品の常連女優、羽田美智子が出演しています。19世紀末に上海に数多く存在した高級娼館を舞台に、男と女の恋の駆け引きや、女同士の鞘当てを描いた作品。当時の風俗を緻密に再現した美術の豪華さは見事ですし、ロウソクやランプで照らされた室内の様子を再現した撮影技術は大変なものだと思います。……でもそれだけ。僕は特に疲れていたわけでもないのに、2時間1分の映画の前半の1時間ぐらいは、すっかり眠りこけてしまいました。

 なんと言ってもこの映画、まず話の筋がわかりにくい。登場する男達は全員弁髪で、服装も似通っているから見分けがつかないし、女たちの服装や化粧も独特で、やはり見分けがつけにくい。複数の娼館と複数の娼婦の部屋を舞台にしていますが、家具や調度類はどれも同じようなもので、室内の家具のレイアウト以外に見分ける方法がない。カメラポジションも常に一定です。映画の頭からお尻まで、ほぼ均一な構図で統一されている上、登場人物はいつも、酒を飲んでいるか、飯を食べているか、煙草を飲んでいるかのいずれか。室内の風景には夜も昼もなく、いつも薄暗い。ロウソクやランプの光が、室内を薄ボンヤリと照らし出している。ミニマルミュージック風の音楽がバックに流れ、1シーン1カットの長回しの中で、カメラがゆっくりとパンしてゆく。これを書いているだけで、また眠くなってしまった……。

 単独の主人公が存在しないまま、複数の登場人物が交差して行くグランドホテル型の映画です。ただし、全体を貫く大きな物語というものも存在しない。全編が娼館を舞台にしたスケッチで構成されている感じです。登場人物が現れては消え、消えたと思うとまた現れる。誰かが物語を引っ張るということはなく、ドラマチックな場面は極力排除され、時間だけが淡々と流れて行きます。おそらくこの映画は、数年間に起こった出来事を描いているのでしょうが、娼館の中には季節感もなく、時間の経過を表すものも存在しない。売れっ子娼婦の身の回りの世話をしていた娘たちが一人前の娼婦に成長する様子を描くことで、わずかに時間経過がわかるぐらいです。

 当時の風俗を、微に入り細に入り描くこだわりと、カメラを決して室外に出さないというスタイルはすぐに理解できますが、風俗を完璧に再現しようとするあまり、映画作品としての活力を失っているようにも思います。資料を徹底的に調べた上で、思い切ってそれを無視する気概がないと、こうした映画は成功しないと思う。歴史資料館が製作した教育映画じゃないんだから……。

 羽田美智子のヒロインぶりですが、台詞がいきなり吹き替えだったのにはいきなり興ざめ。何でも撮影中は、日本語で台詞をしゃべっていたとか。どうりで口と台詞が合わないはずだ。カタカナでもいいから台詞覚えてよ。

(原題:上海花 / Flowers of Shanghai))


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