アベックモンマリ
avec mon mari

1998/10/06 メディアボックス試写室
若い夫婦の喧嘩と仲直りをテンポよく描くラブ・コメディ。
この監督には注目したほうがいい。by K. Hattori


 これは面白い! PFFなどで入賞経験を持つ大谷健太郎監督の長編映画デビュー作だが、映画を観ながら思わずクスクス、時にゲラゲラ笑いながら最後まで楽しませてもらった。低予算の小さな映画だが、面白さではどんな超大作にも負けない。タイプとしては、ウディ・アレンやエドワード・バーンズ(『マクマレン兄弟』『彼女は最高』)などの作品に通じる会話劇で、数人の登場人物の掛け合い台詞で映画を進めてゆくもの。台詞が生き生きしているのがいいし、何より会話の端々に色気を感じさせる。これは日本映画には少ない、オシャレなラブ・コメディだ。これは絶対にオススメです。

 優柔不断で頼りないタモツに美都子が愛想をつかし、夫婦はあわや離婚の危機。美都子はタモツがモデルのマユと浮気していると思いこみ、同時に、彼が自分に何の相談もなしに仕事を辞め、フリーになってしまったのが不満なのだ。今は美都子が雑誌編集の仕事でタモツを養っている状態。その上で浮気なんてされたんじゃ、これほどコケにされた話もない。タモツはマユとは仲のいいお友だちだと言い訳するが、何度も朝帰りをされてはその言い訳も白々しい。ひたすら下手に出るタモツに罵声を浴びせ、美都子は彼を部屋から追い出してしまう。ところが追い出されたタモツは無一文で行くあてもなく、仕方ないのでまたマユの部屋を訪れるのだった……。

 単純な夫婦喧嘩に端を発した物語は、マユを交えた三角関係から、その愛人(夫)であるアートディレクターの中崎を巻き込んで四角関係に発展。タモツとマユを引き離そうとする中崎が、タモツと美都子を仲直りさせようとするのだが、他人からあれこれ言われるほどに、意地っ張りの美都子はタモツを拒絶してしまう。本当にタダのお友だちだったタモツとマユも、周りの騒ぎに影響されてだんだん「その気」になってきてしまうし、親身に相談に乗ってくれる中崎に、美都子は男性としての魅力を感じ始める始末。4人の関係はどうなるのか、ハラハラドキドキ、ソワソワニヤニヤしているうちに、上映時間はあっという間に過ぎてしまうのです。

 優柔不断で家事が得意で妻につくすタイプのタモツと、家事は駄目だけどバリバリに仕事ができて意地っ張りでプロレスが強い美都子のカップルは、普通の映画の男女関係と正反対の組み合わせ。美都子が「あんたなんて出てってよ!」と怒鳴ると、タモツが「そんな、冗談だよね。僕はこんなに君のこと愛してるんだから、どうか捨てないで!」と彼女の足もとにすがりつく。「男はかくあるべし」「女はこうあらねばならぬ」という価値観の基準がなくなっているから、こういうカップルは案外世の中に多いのかもしれない。中崎とマユのような、別居婚カップルも、夫婦のあり方としてはアリかもしれない。

 人物の設定はかなりエキセントリックな部分もあるのですが、会話が自然でテンポもいいので、人物像にはリアリティがある。何でもない話と言えばそれまでだけど、何でもない日常にこそドラマはあるのですよ。


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