レッサー・エヴィル

1998/10/09 メディアボックス試写室
22年前に犯した罪が発覚することを、恐れおののく男たち。
骨太で見応えのある作品。テーマも重い。by K. Hattori


 小さな子供の頃から高校生になるまで、いつも一緒に遊び回っていた親友4人組。しかし彼らは、高校卒業と同時に疎遠になり、20年以上も音信不通だった。卒業から22年目。仲間のひとりから連絡を受けて集まった元親友たちは、かつて自分たちが犯した罪と再び対決することになる。そしてその秘密を守るため、またひとりの命が犠牲になることになったのだ……。

 仲間のひとりの葬式から物語が始まり、葬儀を行う神父が「彼を殺したのは私だ。仲間の秘密を守るための苦渋の選択だった」とナレーションで告白するオープニング。物語はそこから1週間前に戻り、さらに22年前の事件当日が回想シーンで挿入される。登場人物は4人。ナレーターでもあり、名目上の主人公でもあるアイヴァンは神父。仲間内の使いっ走りだったジョージは弁護士。デレックは製材所の経営者。フランクは父親と同じ警官になっている。全員を召集したのはデレック。ひとしきり近況報告が終わった後、デレックは彼らを呼びだした理由を話し始める。それは22年前の悪夢が、ふたたび蘇ったことを意味していた……。

 内容はミステリーなので、あまり詳しいことは書きたくないのですが、これはなかなかよくできた映画です。たまたま持っていた1丁の拳銃が、取り返しの付かない事件を引き起こすという発端。その事件を隠蔽するため、4人がしたこと。22年後に発覚しかけた事件から、4人がいかにして逃れようとするか。警察を恐れるデレック、自分ひとりが罪をかぶせられることを恐れるジョージ、刑務所に入れば死が待っていることを知っているフランク、そして、この機会にすべてを警察に話し、22年前の事件を精算しようと提案するアイヴァン。4人のキャラクターの描き方が秀逸です。山小屋に集まった4人と、22年前を回想するシーンで、ひとつのキャラクターをふたりの俳優が演じているのですが、それがチグハグになっていないのはさすが。例えば全員の良心を代弁するかのように振る舞うアイヴァンは、神父になったから正論を吐いているわけではなく、高校生の頃から正論を主張する性格だったことがわかる。それぞれの人物像に、付け焼き刃なところが見られないのです。

 青春ドラマ、犯罪映画、終盤の息詰まる密室心理劇、そして「誰がなぜ殺されたのか?」というミステリー。これらが緻密にからみ合った、よくできた脚本です。惜しいのは、これだけの脚本でありながら絵作りの点で迫力がなく、物語の語り口には感心しても、映画としてのボリューム感が乏しいこと。「次にどうなる?」というスリルはあるものの、両手にじっとりと汗をかくような、生理的緊迫感が希薄なのです。最後のオチに切れがないのも、それが原因だと思います。絵作りに観るべきものがあれば、この映画は間違いなく傑作になっていたでしょう。今は佳作・秀作止まりだと思う。もちろん映画全体のレベルは水準をはるかに超えているのですが、鼻の差で傑作に手が届かなかった残念な作品です。

(原題:The Lesser Evil)


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