流★星

1998/10/21 シネカノン試写室
『がんばっていきまっしょい』のヒメこと清水真実が出演している。
注目の競走馬を盗み出した3人組の珍道中。by K. Hattori


 地方競馬界期待の星、リュウセイ号をたまたま盗み出してしまった男女3人が、馬主から身代金を脅し取ろうとする物語。馬主は間近にレースを控えていることもあって、事件を警察に届けることができない。身代金を払ってことを穏便に済ませられるなら、多少の身代金を払ってもいいと思っている。ところが素人誘拐犯たちはスケールが小さく、身代金を60万しか請求しない。ところがその身代金受け渡しがどうしてもうまく行かず、受け渡しの日程はどんどん遅れて行く。遅れるに従って、身代金の額もどんどん上がって行く。最初は60万円だった身代金が、最後は7500万円にまでふくれ上がる。

 馬を盗み出す山本老人を演じているのは緒形拳。それに便乗するチンピラ川崎を演じるのは江口洋介。美容整形の資金ほしさに援助交際している少女ひとみを演じるのは、『がんばっていきまっしょい』でコックスのヒメを演じていた清水真実。馬を横取りしようとするやくざを演じているのは、最近いろんな映画に出ている國村隼。山本老人は70過ぎという設定だが、演じている緒形拳は還暦を過ぎたとはいえ、まだまだ元気いっぱい。これがミスキャスト気味なのだ。緒形拳と江口洋介が殴り合いのケンカをしたら、緒形拳の方が強そうだもんね。元新国劇だから腕っ節が強そうだし……。清水真実は最初から「どこかで観た女優だな」と思ったが、『がんばっていきまっしょい』のヒメと結びつくまではしばらく時間がかかってしまった。イメージはずいぶん違います。でも、この役も面白い。(じつは同じ試写に本人が来ていたようです。これも後で気がついた。)

 競走馬の身代金としていくらぐらいが適正価格なのかは知りませんが、まさか60万円ってことはないだろうと思う。身代金を要求している側は、まったくの素人じゃない。山本老人も川崎も競馬場通いの常連で、レースの裏でどのぐらいの金が動いているのか、盗んだ馬にどのぐらいの価値があるのかは十分に承知しているはずなのです。山本老人が馬を盗んだことを知った川崎が、「60万円は俺がもらう」というのはヘンだ。ここは最初から、「もっと要求して山分けしよう」になるべきではなかろうか。それ以降、馬主が値を上げるのは馬主の勝手ですが、少なくとも最初から主人公たちに欲がなさ過ぎるのは白けてしまう。山本老人に欲がないなら、せめて若い川崎は欲望ギラギラの人間にしてほしかった。

 登場人物たちの配置としては、「誘拐グループ」「馬主」「やくざ」という三者がいるのですが、國村隼の芝居が目立つ割には、やくざの活躍が目立たなかったのは残念。「誘拐グループ」と「やくざ」で、馬の争奪戦をやれば面白かった。あと、身代金引き渡しがもたつけば、それだけレースまでの時間が迫ってきて、そこがスリルを生み出すはず。ところがこの映画では、そうした「時間切れのスリル」を芝居の中から感じることができない。レースまでの時間がどんどん迫ってくるスリルが味わえれば、この映画はもっともっと面白くなったと思う。


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