ザ・ジェネラル

1998/10/28 渋谷東急(英国映画祭)
「将軍」と呼ばれた窃盗団のリーダーを主人公にした犯罪映画。
人間ドラマの部分に厚みがあって見応えアリ。by K. Hattori


 舞台はアイルランドのダブリン。低所得者層が暮らすスラムのようなアパートで生まれ育った主人公マーティン・カーヒルは、窃盗で少年院や刑務所を何度も出入りしながら組織的な窃盗団のリーダーになり、仲間や警察から「将軍(ジェネラル)」と呼ばれる大物になって行く。画面はモノクロのシネマスコープ。映画の冒頭で、いきなり主人公が殺され、そこから主人公の過去が語られるという回想形式。あらかじめ主人公の死が観客に知らされているため、はじめは颯爽として羽振りのよかった彼が、徐々に追いつめられてゆく様子に悲壮感が漂います。主人公は自分の敵と戦い続けますが、その戦いが最後は敗北に終わることを、観客は全員知っている。あらかじめ決められた「死」というゴールに向けて、主人公がまっすぐに走り続ける様子が哀れであり、また、格好良くもあるのです。映画を最後まで観ると、悲劇だと思われた主人公の死が、必ずしも悲劇という側面だけから語られるべきではないようにも思えてくる。ラストシーンにある不思議な開放感は、少年時代から続いた彼の逃走が、ようやく終わった安堵感でもあるのです。

 主人公の少年時代から回想が始まり、少年院の面会室の場面で一気に大人になった主人公を見せる演出は見事。これによって、主人公の人生の多くが「塀の中」にあったことが暗示されます。同時に、幼なじみの少女と主人公が夫婦になり、子供が何人かいることも説明してしまう。無一文で低所得者向けのアパートに住みながら、弁護士を高額で雇う大物ぶりも見せてしまう。まことに簡潔で無駄のない描写です。映画祭のパンフレットには、主人公を「暗黒街の顔役」と説明していますが、実際はメンバー10数名からなる窃盗団のリーダーに過ぎません。しかしこの連中は、やることがでかい。マーティンの立てた入念な犯行計画に沿って、信頼の置ける仲間たちが手足のように働く。そのチームワークと鮮やかな手並みは、「鬼平犯科帳」に出てくる盗人たちのようです。

 実際の盗みとしては、カジノ強盗事件、宝石店強奪事件、絵画窃盗事件が登場しますが、これに裁判シーンなども挿入され、犯罪映画としては申し分のない内容。こうした事件を通して、主人公の頭の良さや部下の統率力、信任の厚さなどが描かれて行きます。主人公を演じているのはブレンダン・グリーソン。見た目はただの中年男ですが、やはりこの男はただ者ではない。彼は規制のモラルの外側にいる男で、自分を「正直に生きているまともな泥棒」と考えているようですし、自分の仕事にもへんな誇りを持っている。妻との間に子供をもうけ、妻の妹を愛人にして子供を産ませる不思議な男です。

 主人公と対立する警官たちが、主人公を憎みながらも不思議な連帯感を感じているという描写が面白い。警官たちが一番怒るのは、盗みでも女性問題でもなく、主人公がプロテスタントと取り引きしたことだったりするのです。主人公の逮捕に血眼になるジョン・ボイトが、少しずつ主人公に似てきてしまう描写も面白かった。

(原題:THE GENERAL)


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