ガッジョ・ディーロ

1998/10/30 メディアボックス試写室
ルーマニアのロマ(ジプシー)の村を訪れたフランス人青年の物語。
ロマ特有の文化や音楽が興味深い。by K. Hattori


 死んだ父親の残した1本のカセットテープをもとに、ルーマニアの歌手ノラ・ルカを探し求めるフランス人青年フィリップ。やがて彼は、ルーマニアにあるロマ(ジプシー)の小さな村にたどり着く。彼は言葉が通じないままロマの老人イシドールと飲み明かし、風変わりなよそ者として村に住み着いてしまう。『ガッジョ・ディーロ』というタイトルは、ロマの言葉で「よそ者」のこと。彼はテープの歌声を村人に聞かせてノラ・ルカを探すが、誰も彼女のことを知らない。やがて、村で唯一フランス語のわかるサビーナという女性がフィリップの通訳となり、イシドールも協力してノラ・ルカ探しが本格的にスタートするかに思えたのだが……。

 監督は『ガスパール/君と過ごした季節』『モンド』のトニー・ガトリフ。主人公フィリップを演じているのは、『猫が行方不明』『青春シンドローム』『ドーベルマン』などに出演していたロマン・デュリス。フィリップと恋をするロマの女性サビーナを演じているのは、ルーマニア出身のローナ・ハートナー。彼女はこの映画で、ロカルノ映画祭の主演女優賞を受賞しています。この映画に出演しているプロの俳優は、主演のデュリスとハートナーだけ。あとは現地の素人たちに本人役で出演してもらい、半ば即興的に撮影が進められたそうです。素晴らしい存在感を見せるイシドールが、まるっきりの演技初心者だったとは、まったく驚きました。

 たくさん映画を観ていると、どういうわけか、意図せずして似たような映画を続けて観ることがあります。今回の映画は、つい先日観た日本映画『PARAISO』にどことなく近いものがある。異国を訪れた都会人が、現地の人々とふれ合い、文化や音楽に接している内に、自分の心がその土地と分かちがたく結びついて行くのを感じる……という部分が、『ガッジョ・ディーロ』と『PARAISO』の共通点です。もちろん映画としては、『ガッジョ・ディーロ』の方が比較にならないほど優れている。この映画の中には、ロマの人々の魂が刻み込まれているような気がします。僕はフィリップを通してロマの人々と親しくなり、ロマの生活や音楽に触れ、フィリップがロマの人々を大好きになったように、僕もロマの人たちが大好きになった。異邦人フィリップの目が、我々観客の目を代行してくれるのです。

 異邦人としてロマの村を訪れたフィリップは、最後には自分もロマの一員として生きて行くことを選んだように見えます。このあたりは台詞や行動ではっきりそうだと描かれているわけではありませんが、フィリップの行為とそれを見守るサビーナの表情が、すべてを語っているように見えます。フィリップは道ばたに作った墓の中に、自分の過去を放り込み、ロマ流の別れの挨拶をする。それが彼の決意の現れなのでしょう。

 芸能集団として重宝がられる一方で、蔑みの対象でもあるジプシーの問題が、さらりと描かれているのもよかった。このさりげなさが、かえって心に迫ってきます。

(原題:Gadjo Dilo)


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