2/デュオ

1998/10/31 ル・シネマ2
東京国際映画祭・シネマプリズム(特別上映)
優しさゆえに傷つき自滅して行く同棲カップルの愛の行方。
話の内容には身につまされるところが多い。by K. Hattori


 昨年公開されて高い評価を受けた映画だが、僕は未見でずっと残念に思っていた作品。今回シネマプリズムで特別上映された機会に、ようやく観ることができた。同棲しているカップルの心がすれ違い、最後は別れてしまう話だが、特に理由もないのに起こるイライラが巧みに描かれていてじつにリアル。「ああ、こんなことってあるよなぁ」と我が事のように感じる場面も多くて、けっこう身につまされてしまいました。

 主人公たちが、相手に対してすごく優しいのが印象的。理由をはっきり口に出せない小さないらだちを、ヒステリックな行動として相手にぶつけてしまいつつ、すぐにそれを反省して謝る男。彼を許しながらも、少しずつ生活に疲れを感じてゆく女。男は売れない役者で、女はブティックの店員。男にはほとんど収入がないので、ふたりの生活は女が支えている。男には夢があり、女もそれを邪魔したくないと思っている。かといって、彼女は彼を積極的に応援するわけではない。ふたりは互いに、相手を傷つけまい、負担になるまい、相手の行動に余計な口出しはすまい、と考えている。それを直接台詞で語るわけではないものの、画面からはふたりの「気遣い」がひしひしと伝わってくるのです。

 人間関係の中で「気遣い」は確かに大事なことですが、複数の人間が一緒に生きるということは、多かれ少なかれ、自分の生き方や価値観を相手に押しつけることにつながります。でもこの映画の主人公たちは、そうした押しつけを極端に避けようとしている。彼らは生き方が衝突すると、相手を自分に合わせさせるより、自分が相手の負担にならないように一歩引いてしまう。こうして譲り合っているうちに、ふたりは小さなアパートの中に自分の居場所を見失ってしまう。主人公の男が部屋を目茶目茶にした時、「かたさなくちゃ。かたそう。きれいにしなくちゃね」と涙ぐみながら部屋を片付けはじめる女の姿をみて、僕はすごく嫌な気分になってしまった。こんな風に物にあたるぐらいなら、最初からぶん殴っちゃったり、平手打ちが飛んできたほうがよほどサッパリしてると思う。彼らはお互いに自分の気持ちを殺して、その重圧でつぶれていってしまうのです。

 何かから逃れるように、突然恋人に結婚を申し込む男の気持ちが、僕には何となくわかるような気がした。彼は結婚という抜き差しならない情況に自分を追い込むことで、自分が変わることを期待している。彼は彼女に、自分を変えてほしいのです。でも変わることそのものは、彼の本意ではない。本当は変わりたくないのに、変わらざるをえない情況になることを彼は期待している。いつまでも踏ん切りの付けられない情況を、結婚が打破してくれるのではないかと考えている。他力本願です。

 ふたりの関係が最終的にどうなるかについて、映画は明確な結論を出していない。でもこの関係が、もとの幸せな状態に戻るとは思えない。もしやり直すとしたら、ふたりはまたゼロからはじめなければならないのです。


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