ロージャー

1998/11/04 渋谷エルミタージュ
東京国際映画祭/シネマプリズム
ゲリラの人質となった男の妻が、夫救出のために奔走する。
『ボンベイ』のマニラトナム監督作品。by K. Hattori


 僕がマニラトナム監督の映画を観るのは、『ボンベイ』『ザ・デュオ』に続いてこれが3本目。最初に観た『ボンベイ』こそ大感動したものの、残りはイマイチの感がぬぐえない。この作品は監督の代表作のひとつだというが、どうにも物足りないのだ。政治的・社会的なテーマを大上段に振りかざして、それに男女の愛情をからめ、さらに敵味方の立場を越えた友情、家族の情愛をトッピングして、ミュージカル仕立てにするという『ボンベイ』と同じ手法で作られた映画だが、全体の構成に弱いところがあるようにも思える。

 タイトルの『ロージャー』というのは、この映画のヒロインの名前だ。彼女は政府の仕事をしているコンピュータ技師リシと結婚するが、新婚早々、彼は出張先のカシミールで反政府ゲリラに誘拐されてしまう。ゲリラたちの要求は、人質と交換に自分たちのリーダーを釈放することだ。やがて政府の対応は、「囚人の釈放するぐらいなら人質の犠牲もやむなし」という方向に傾いてゆく。……この話自体は悪くないんだけど。

 オープニングは霧にかすむ森の中で、政府軍とゲリラが銃撃戦を繰り広げる場面から始まる。ところが、この場面がどうにも迫力不足で、少し白けてしまった。ここで観客の興味を引きつけられれば、後は楽だったと思うのだが、少なくとも僕はダメだった。このシーンの中途半端さが仇となって、この後のお見合いシーン以下も印象がぼけてしまう。文句を言うついでに指摘すると、このお見合いシーンは映画の中で唯一華やかな場面。ここはもっと豪華絢爛にできなかったんだろうか。すぐ後に結婚式のシーンもあるのだが、その時点でロージャーはリシを誤解し、嫌っているのだから、あまり華やかな演出ができないという面がある。お見合いシーンはそうした枷がないので、思い切り羽目を外して、おめでたい雰囲気を出してほしかったのだが……。

 今回の映画を観て確信したのだが、たぶんマニラトナムという監督は、ミュージカルが嫌いか、演出が極度に不得手な人なのだろう。映画の前半こそミュージカル風の演出があるが、物語が佳境に入る後半からは、音楽場面がまったく消えてしまう。また前半の数少ないミュージカルシーンも、登場人物が歌に合わせてはしゃぎ回り、カットごとに場面が次々変わって行くだけで、俳優は歌を歌っていないし踊ってもいない。歌は登場人物たちの心情を代弁するBGMになっているだけで、台詞のかわりに歌われることはほとんどない。

 政治的・社会的テーマとミュージカルが、相容れないわけではないと思う。同じマニラトナムは『ボンベイ』でそれにチャレンジして成功しているし、舞台作品にもたくさんの政治ミュージカルは存在している。この映画でも、後半でミュージカルにできそうな場面はたくさんある。でもマニラトナムはそれを、ストレートなドラマとして描こうとしている。しかしそうなると、物語が持っている根本的な甘っちょろさが目立つのです。

(原題:Roja)


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