ファイヤーワークス

1998/11/19 東映第2試写室
『タイタニック』の憎まれ役ビリー・ゼーン主演のサスペンス映画。
雰囲気はいいが最後の詰めがちょっと甘い。by K. Hattori


 『タイタニック』でローズの嫌味な婚約者を演じたビリー・ゼーンが主演のサスペンス映画。共演は『バウンド』のジーナ・ガーションと、『ツイン・ピークス』のシェリル・リー。原作は『ゲッタウェイ』『グリフターズ/詐欺師たち』のジム・トンプソン。脚色は『48時間』『ジェロニモ』のラリー・グロスで、彼は製作も兼務。監督はビデオ・クリップ出身のマイケル・オブロウィッツ。映画は'48年代ジャズレーベル風のタイポグラフィを連想させるグラフィカルなオープニングタイトルで始まり、全編のBGMにもジャズをちりばめながら、主人公たちの悪徳三昧を綴って行く。

 幼い頃に父の不倫と殺人を同時に目撃して以来、主人公マーティーと双子の妹キャロルにとって、世界は狂ったものになった。狂った世界の中では、狂った行動こそがもっとも正しい選択だ。世界から孤立したふたりは、いつしか近親相姦的な兄妹愛で強く結ばれる。映画では明確に描かれてはいないが、どうやら性的な関係もあるらしい。成長したマーティーはシカゴで新聞記者をしていたのだが、警察腐敗を暴く記事を書いて逆に警察に命を狙われ、故郷のカリフォルニアに戻ってくる。妹のキャロルも、富豪の御曹司との結婚を解消して家に戻っていた。こうして兄と妹は運命的な再会を果たし、破滅への歯車がゆっくりと動き始める……。

 「警察の汚職を暴こうとする新聞記者」と言うと聞こえはいいが、マーティーを突き動かしているのは正義感ではない。彼の誇大妄想的な自意識が、大きな組織や権力に楯突かせているだけなのだ。世界はマーティーを中心に回っている。偉大なマーティー様にとって、ありとあらゆる権威や権力は(少なくとも意識の上では)敵ではない。父親が警官の女房と不倫し、現場に踏み込んできた亭主をショットガンで吹き飛ばした血生臭いシーンが、彼の脳裏にこびりついて離れない。マーティーにとって死刑になった父親は、警察という権力に刃向かったスーパースターなのだ。

 新聞社を辞めたマーティーが、新たな金づるとして目を付けたのが、町で目を付けた婦人警官のロイス。欲求不満の彼女をたらし込み、駆け落ちをちらつかせて持ち家を売却させ、金だけ奪って彼女を始末するのがマーティーのもくろみだ。一緒に逃げる相手はロイスではなく、妹のキャロルに決まっている。だがその頃からキャロルは、少しずつ精神のバランスを崩して行く。

 映像や音楽はスタイリッシュにまとめようとしているのだが、物語の構成がややまとまりに欠け、主人公の挫折や最後のどんでん返しがきれいに決まらなかったのが残念。主人公マーティーとローズのキャラクターはうまく描けているが、それに比べると妹キャロルのキャラクターが上っ面だけに終わったのも残念。主人公が女のしぶとさに屈服するラストシーンが浅くなったのは、そんな理由からだ。キャロルの心の奥にある暗闇が見えてくると、この映画は凄みのある傑作になっていただろう。

(原題:This world, then the FIREWORKS)


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