バンディッツ

1998/12/01 TCC試写室
刑務所でバンドを組んだ女性4人が、刑務所を脱走してCDデビュー。
フェミニズムの香りがする音楽映画。痛快です。by K. Hattori


 殺人、強盗、詐欺などで服役中の女たちが、刑務所内でバンドを結成。メンバーはエマ、ルナ、エンジェル、マリーの4人。バンド名は「悪党」を意味する「バンディッツ」に決まった。やがて彼女たちは警察主催のパーティーで演奏を披露することになったが、警備の隙をついてまんまと脱走に成功。目指すは海外への高飛びだ。しかしそのニュースを聞いたレコード会社が、刑務所から送られていたデモテープを勝手にCD発売し、彼女たちは一躍人気グループになってしまう。警察から逃げながら、テレビに出演し、ライブハウスで飛び入り演奏を披露し、最後は大規模なライブまで敢行するバンディッツの面々。お尋ね者にして人気バンドの彼女たちは、はたして無事国外まで逃げ延びられるのか……。

 社会体制から落ちこぼれた連中がバンドを作るという『ザ・コミットメンツ』風の物語に、逃亡犯が警察に追われながらバンド活動をする『ブルース・ブラザース』風の味付けを加え、人気グループがファンに取り巻かれて大騒ぎというビートルズ映画風のシーンをトッピングし、さらに全体をフェミニズムで味付けした音楽映画です。エピソードの多くはいろいろな映画からの影響が感じられて、特別新しい感じはしません。「刑務所でバンドを結成」「それが丸ごと脱走して人気バンドになる」という話は面白いのですが、それがテーマではないようです。この映画の一番ユニークな点は、やはり全体から漂うフェミニズムの香りでしょう。

 主人公はバンドの中でボーカルを担当しているルナです。彼女は強盗事件の犯人として服役していますが、他のメンバーは全員が男がらみの事件で服役している。エマはかつて所属していたバンドで、男性メンバーを殺している。エンジェルは凄腕の結婚詐欺師。マリーは夫殺しです。ルナを除く3人は、女であるがゆえに罪を犯し、刑務所に入っている。ルナは3人をメンバー内部から見つめる「男性的(中性的)視点」を代表し、彼女たちを追う刑事は、外部からの「男性的視点」を代表している。こうしてメンバーたちは、その内外から子細に見聞されることになります。メンバーが男性の人質を取ることで、メンバー内に強制的に「男性の視点」を入れる試みもなされますが、これはルナの女性としての面に光を当てるだけで、すぐに外に放り出されてしまう。この人質のエピソードは、この映画の態度を象徴的に表しています。

 演奏シーンは基本的に吹き替えですが、ルナ役のヤスミン・タバタバイ(変わった名前ですが、彼女はイラン出身)は自身で歌声を披露。それもそのはずで、彼女は現役のロック歌手でもあるのです。もっともこの映画では、吹き替えシーンがうまくいっていなくて、口と歌がちぐはぐな場面もありますが……。

 監督はこれが長編映画デビュー作となるカーチャ・フォン・ガルニエ。今までに短編とドキュメンタリーを数本撮り、数々の賞を取っている人です。この『バンディッツ』は、ドイツで大ヒット作となりました。

(原題:(b)andits)


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