新・唐獅子株式会社

1998/12/15 GAGA試写室
武闘派やくざが株式会社になった組事務所に帰ってきた!
喜劇映画の職人・前田陽一監督の遺作。by K. Hattori


 イケイケの武闘派やくざ黒田哲夫が6年の刑期を終えて二階堂組に戻ってきたとき、組は「ニカイドー・エンタープライズ」という会社組織に模様替えしていた。仕事の中身はインターネットとケーブルテレビ。黒田もケーブルテレビ局の局長職を任されるが、どうにも新しい職場は居心地が悪い。そんな時、組員(社員)のひとりが何者かに銃で撃たれる事件が発生。犯人はケーブルテレビ局に電話で犯行声明を出し、「残った弾は5発。これから5人のやくざを血祭りに上げる」と予告してきた。いたずらにしてはタチが悪いと半信半疑の組員たちだったが、間もなく予告通り、組員たちが次々に狙撃される事件が連続する。黒田たちは独自に犯人探しを始め、小さなバーの経営者に目を付けるのだが……。

 昭和39年のデビュー作『にっぽんぱらだいす』から一貫して喜劇映画を作り続け、一部に熱狂的なファンのいた前田陽一監督の最新作。撮影半ばで監督が急死したため、残りを前田監督と親交のあった南部英夫監督と、今回の助監督をしていた長濱英高監督が撮って完成させた作品だ。前田監督が撮っていたのは全体の6割ほどだそうですが、残り4割と仕上げが人手に渡ってしまった結果、この映画にどの程度「前田色」が残っているのかはわからない。映画の正式なクレジットは前田陽一監督になっているとはいえ、これは実質的に「監督交代」に匹敵する出来事だと思う。前田陽一ファンが往年の「前田流喜劇」を期待すると、不満が残るかもしれない。

 映画は序盤の芝居がそれなりに面白く、特にオープニングの大がかりな立ち回りと、出所後の黒田のギャップが楽しい。しかしこれも、組の若い衆が何者かに銃撃されて物語が新たな局面に入ったあたりから失速し始め、後半はかなりダレてくる。どのへんで監督が交代したのかはわからないが、終盤はまるでピリッとしたところがない凡作になっていると思う。話そのものは面白いので、最後まで観られることは観られるのだが、少し残念。撮影中の監督の死という事情を知っているだけに、作品についてあまりネガティブな評価をするのも気の毒なのだが、1本の映画としてまとまりに欠けているのは事実だ。

 赤井英和演じる黒田のムショボケぶりや、つみきみほ演じるケーブルテレビ局のディレクター蘭子とのロマンスも不発気味。山本竜二演じるアナウンサー、ダーク荒巻のハチャメチャぶりも勢いがないし、麿赤兒が演じている組長が狙撃されるシーンも笑えない。永島敏行演じるバーのマスター宮島と黒田の不思議な友情も、何やら唐突な気がしてしまった。特に宮島は後半のキーパーソンだけに、この中途半端さは不思議でならない。

 映画製作の裏事情がどうあれ、観客にとっては出来上がった映画の面白さが問題になる。その点で、この映画は製作に関わったスタッフやキャストにとって、非常に不本意な作品だと思う。それは監督を引き継いだふたりの監督も同じ気持ちだろう。せめてこれがきっかけで、過去の前田作品に脚光があたればいいのだが……。


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