ホームドラマ

1998/12/22 映画美学校試写室
平凡な一家が見るも無惨に解体して行く残虐なホームドラマ。
脚本・監督はフランソワ・オゾン。by K. Hattori


 夫婦と子供ふたりの平凡な家庭、頻繁に通ってくる娘の恋人、出入りの家政婦とその夫。総勢7人が織りなす、ハチャメチャかつグロテスクなホームドラマの行方。監督は『サマードレス』『海をみる』のフランソワ・オゾンで、この映画が長編デビュー作。長編と言っても上映時間は1時間20分だから、昨今ますます長尺化を進める長編劇映画に比べるとずいぶんコンパクトだ。15分の短編『サマードレス』で、微塵の隙もない映画を作ったオゾン監督だけに、この『ホームドラマ』もまったく無駄がない。平凡なホームドラマの人物配置を借りながら、中身は自殺未遂、身体障害、ホモセクシャル、SM、近親相姦、乱交パーティー、無理心中、動物虐待など、「平凡なホームドラマ」ではまず取り上げないようなテーマがぎっしり詰まっている。真面目な人がこれを観ると、怒ってしまうかもしれない。そのぐらい毒がある。

 原題の『Sitcom』は「シチュエーション・コメディ」の略。「シチュエーション・コメディ」は「ラブコメ」「ロマコメ」「スクリューボール・コメディ」などと同じコメディ映画の1ジャンルなのだが、これが「シットコム」と略されると、一般的にはテレビの連続ホームドラマの意味になる。日本にはこれに該当する番組がなかなかないのだが、あえて言えば「サザエさん」だろうか。決まり切った人物配置で、毎回そこそこの事件が起こり、最後はきれいに解決してめでたしめでたし。フランスでは「シットコム」という言葉に、「無害で平凡な安手の連続ドラマ」という軽蔑の意味が込められているそうです。この映画『ホームドラマ』は、そんなテレビドラマの世界を、見事にひっくり返してしまう。もっともこうした「シットコム」のグロテスクなパロディ化は、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』でオリバー・ストーンも使ってました。だからアイデアとしては、特別ユニークな物ではない。「シットコム」という保守的な作劇スタイルを茶化すのは、簡単と言えば簡単なんです。

 この映画の面白さは、典型的なシットコムの世界から映画が始まり、滅茶苦茶なエピソードが盛り込まれた部分を通過して、最後はまた典型的シットコムの世界に戻ってくるところです。最初から最後まで滅茶苦茶にしてしまえば、それは安っぽいシットコムを、安易にパロディにしたものでしかない。この映画は、シットコムに始まり、シットコムで終わるところが高度なのです。この映画に一番近い作品は、周防正行のデビュー作『変態家族/兄貴の嫁さん』でしょう。この映画も、邦画ホームドラマの頂点、小津安二郎の世界を巧妙に引用し、ポルノ映画にしてしまった作品だった。ただし、『ホームドラマ』はそれよりもっと過激です。

 たぶん、オゾン監督はシットコムが嫌いなのです。だからこの『ホームドラマ』という映画に、致死量の毒を盛ることができる。それでもなお、この作品がバラバラにならないのは、オゾン監督の上手さと言うしかない。これは天性の物かもしれない。今後に注目です。

(原題:Sitcom)


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