猿の惑星

1999/01/06 GAGA試写室
同年製作の『2001年宇宙の旅』と人気を二分した古典SF映画。
ニュープリント、新訳でリバイバル公開。by K. Hattori


 1968年製作のSF大作が、ニュープリントでリバイバル公開される。この映画は後に『続・猿の惑星』『新・猿の惑星』『猿の惑星/征服』『最後の猿の惑星』という続編を遭わせた5部作になり、特殊メイクが話題の見せ物シリーズめいてくる。しかしこの第1作が公開された当時は、同じ年に公開された『2001年宇宙の旅』と比較して、どちらがSF映画として優れているかが真剣に議論されていたらしい。当時の映画ファンの間では、『猿の惑星』に軍配を上げる意見が多かったとか。ただ『猿の惑星』はわかりやすすぎて、映画の持つテーマや内容の解釈について、映画ファンの中で議論の余地があまりない。そんなことから、『2001年』はカルトムービーとして残り、『猿の惑星』は時代の中に埋もれて行ってしまったのでしょう。ジェームズ・キャメロンがシュワルツェネッガー主演でこの映画をリメイクするという話がありましたが、その後の進展状態を聞きませんね。このままだと企画倒れになりそうです。

 外宇宙を探検するため地球を飛び立った宇宙船が、宇宙船内の時間で1年数ヶ月、地球時間で2千年かけてたどり着いた惑星は、知能を持つ猿たちが人間を害獣として駆り立てる社会だった。生き残った宇宙飛行士は捕らえられ、言葉をしゃべる新種の人間として実験材料にされそうになる。辛くもそこを脱出したものの、逃げ延びた荒野の先で知った衝撃的な事実に、彼は人間を呪うのだった……。と、プロットを紹介するまでもない有名な映画ですし、ラストの「衝撃的な事実」も有名すぎて、今となってはまったく新鮮味はありませんよね。

 猿と人との関係が逆転した社会を通して、人間社会を風刺し、誰ひとりとして疑うことのない人類の文明を批判しようとする作品ですが、こうしたアイデアは、スウィフトの「ガリバー旅行記」にルーツを持つものでしょう。「ガリバー旅行記」には、馬と人間の立場が逆転した世界が登場します。しかしガリバーと『猿の惑星』の主人公テイラーの違いは、ガリバーが馬の国の客人としてもてなされているのに対し、テイラーは猿に捕らわれて命の危険にさらされているということ。この映画は逆転した世界のディテールを皮肉っぽく描きつつ、脱走映画としての面白さも兼ね備えているのです。監督は後に脱走映画の傑作『パピヨン』を撮った、フランクリン・J・シャフナー。『パットン大戦車軍団』でアカデミー賞を取った監督です。演出はさすがに力強い。

 原作者のピエール・ブールは、『戦場にかける橋』の原作も書いたフランス人作家。彼は第二次大戦中に日本軍の捕虜になった体験をもとに、『猿の惑星』を書いたといいます。映画の前半でたっぷり描かれている人間と猿との逆転した関係は、捕虜収容所で味わった屈辱と恐怖の体験をモデルにしたのでしょう。しかしこの物語のすごさは、単に「猿と人間の逆転」というアイデアに満足せず、そこから文明のありかたそのものを批判していることです。そこが作家の才能なんでしょうね。

(原題:PLANET OF THE APES)


ホームページ
ホームページへ