ウィズ・ユー

1999/01/07 GAGA試写室
個性的な10歳の女の子と、知的障害を持つ“男の子”の友情。
映画としての完成度以前に、泣けてしまった。by K. Hattori


 高校生の頃、ボランティアで障害児とその親たちの夏休みキャンプに参加したことがある。地域の作業所主催のものだと思うんですが、参加したのは知的障害を持つ子供や、ダウン症児、自閉症児など。僕は当時好きだった女の子(彼女というわけではない)につられて参加したという、かなり不純な動機だったのですが、普段は接することのない子供たちと一緒にいられたのは、貴重な経験だったと思います。障害を持つ子供というのは、ものすごくせまい社会の中で暮らしているので、その社会と直接コンタクトを取ろうとする意志がない限り、なかなか触れあうチャンスはないのです。

 『ウィズ・ユー』という映画は、知的障害を持つ30歳の“男の子”と、複雑な家庭で育った10歳の女の子の友情を描いたヒューマン・ドラマです。アル中の母親が経営するモーテルで、年の離れた姉を含めた3人で暮らしているハリエットは、いつも「今ある現実から逃げ出したい」と考えている。彼女はUFOに誘拐されることを本気で望んだり、家の庭先から中国まで穴を掘り進もうと考えたりしている。ハリエットは当然学校の中でも変わり者で、親しい友人はひとりもいない。そんな彼女のモーテルに、母親と車で旅をしているリッキーがやって来ます。知的障害を持つ彼は母親とずっと一緒に暮らしていたのですが、母親がガンで余命わずかになったため、障害者向けの施設に入ることになったのです。モーテルに滞在したのは、母と子が最後に水入らずで過ごす最後の日々を楽しむため。そんなリッキーとハリエットは、出会った瞬間に友だち同士になります。

 この映画は、ハリエットとリッキーが一緒に過ごした、1週間ばかりの出来事を描いています。その間に、ハリエットの母親が事故死し、姉だと思っていたグウェンがじつはハリエットの実の母だということが明らかになり、ハリエットがリッキーと家出するなど、じつにいろいろな事件が起こります。でも僕はそうした個々のエピソードより、リッキーが自分の周囲で起こる残酷な現実を逐一理解しながら、それを自分ではどうすることもできずに苦しんでいる姿を見て泣けてきてしまった。

 知的障害があっても、思考能力ゼロということではありません。リッキーは身体の発達に知能の発達が追いつかないだけで、自分が他の人たちとは異なっていることを理解している。たったひとりの肉親である母親が、もうじき死ぬことも知っている。ハリエットとどんなに仲がよくなっても、やがて彼女は成長して大人になり、自分は子供のまま取り残されることを知っています。ハリエットと一緒にいるとき、リッキーは幸せです。でもその幸せは、永久には続かないのです。奇蹟は起こらない。それをリッキーは知っています。

 俳優ティモシー・ハットンの映画監督デビュー作。リッキーを演じているのは、ケヴィン・ベーコンです。ハリエット役のエヴァン・レイチェル・ウッドは、『プラクティカル・マジック』にも出演している子役です。

(原題:Digging To China)


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