U・ボート
ディレクターズ・カット

1999/01/25 日本ヘラルド映画試写室
ウォルフガング・ペーターゼン監督の出世作を監督自ら再編集。
上映時間3時間半の大作に仕立て直した。by K. Hattori


 1981年に製作されたウォルフガング・ペーターゼン監督の出世作を、監督自らが再編集し、音をデジタル・リミックスした「ディレクターズ・カット」。オリジナル版は2時間15分だが、今回は3時間29分になっている。もともとこの映画は、劇場公開映画とテレビドラマを同時進行で製作していたもので、ドラマ版は6時間あるという。映画版はテレビ版を短縮したものなのだ。日本では似たような例に『南極物語』がある。劇場で大ヒットした映画より、後に前後編に分けてテレビ放送されたものの方が尺が長く、エピソードの数も多いのにびっくりしたものだ。『U・ボート』はハリウッド映画に押されるドイツ映画界が、起死回生に放った超大作。ドイツ国内はおろか世界各国で大ヒットし、ペーターゼン監督はアカデミー賞にもノミネートされた。彼はその後、ハリウッドに拠点を移して『ザ・シークレット・サービス』や『エアフォース・ワン』を撮る売れっ子監督になった。「ドイツ映画ここにあり!」と作った映画が評価されて、監督がドイツから去るとは皮肉だ。

 この映画は日本でも大ヒットしたのだが、僕は残念なことに劇場では観ていない。僕が最初にこの映画を見たのはテレビだった。話題騒然だった映画を僕はテレビの前でかたずを呑んで見つづけたのだが、数ある危機を乗り越えて主人公たちの乗る潜水艦が無事港に入り、出迎えの人たちの歓迎を受け、いよいよ飛行機の爆撃を受けるというシーンになって、友だちから電話がかかってきてしまった。急いで電話を切ったのだが、テレビの前に戻ったときには、既にU−ボートは沈み、船長がガックリと息を引き取るシーンになっていた……。僕は『U・ボート』と聞くと、貴重な映画鑑賞を邪魔したクラスメート横井君の名前と顔を瞬時に思い出すのである。

 今回のディレクターズ・カットの特徴は、とにかく上映時間が「長い!長すぎる!」ということ。潜水艦が基地を発進してから、とにかく単調な時間が過ぎて行く。敵艦を見つけても遠すぎる、追いつけない、とりあえず逃げるのが先決。戦争映画であるにもかかわらず、いつまでたっても戦闘シーンにならないのだ。この中途半端な緊張と弛緩の繰り返しに、観ているこちらもヘトヘトになってきてしまう。しかし、これはこの映画のマイナス点ではない。せまい潜水艦の中に閉じ込められイライラしているのは、映画の登場人物たちも同じなのだ。観客である僕のイライラは、そうした登場人物たちの気持ちに感情移入しているからに他ならない。その証拠に、映画を観終わった後は、この長さが必要だったと感じる。どこかをカットして「テンポよく」「歯切れ良く」「面白おかしく」映画を編集してしまっては、この映画のテーマまで損なってしまうだろう。

 この映画の舞台は1941年大西洋。日本がアメリカと戦争を始めた時点で、既に同盟国ドイツは劣勢だったことがわかる。そう考えると、やっぱり日本の戦争というのは、無謀以外のなにものでもなかったのね……。

(原題:Das Boot)


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