新・喜びも悲しみも幾歳月

1999/02/07 松竹セントラル3
昭和32年製作の傑作を木下惠介監督が自らリメイク。
植木等が素晴らしい芝居をする。by K. Hattori


 昭和32年に製作された『喜びも悲しみも幾歳月』と同じく、1組の灯台員夫婦を主人公に、日本各地の灯台を渡り歩く苦労と喜びを描いた感動作。前作から30年近くたった昭和61年に、木下惠介監督自身の手でリメイクされた作品と考えることもできる。前作同様、これは長い年月に渡って日本中を転々とするロードムービーであり、若い夫婦が成長してゆく大型ホームドラマでもある。主演は加藤剛と大原麗子。祖父の役で植木等が軽妙な老け役を見せている。これがなかなか泣かせます。

 人気映画には続編がつきものですが、続編映画で絶対に守られる暗黙のルールがある。それは映画の登場人物たちが、大ヒットした映画を観ないということ。『ダイ・ハード』が大ヒットしても、マクレーン刑事本人はその映画を観ることがない。次々事件に巻き込まれたとき、「これじゃまるで『ダイ・ハード』だぜ!」なんて絶対に口にしない。こうしたルールを少しひねって提示したのが『スクリーム2』です。これは前作の事件が映画化されたとして、登場人物たちが自分たちをモデルにした映画を観ている。ただし、配役は違うけど……。

 ところがこの『新・喜びも悲しみも幾歳月』は、そうした続編映画のタブーを軽々とうち破ってしまう。この映画に登場する植木等は、『喜びも悲しみも幾歳月』を10回観たと言い、観るたびに息子のことを思って泣くのだという。彼は立ち寄った灯台の職員と一緒に、映画のテーマ曲を熱唱するのだ。もちろんこれは、前作とこの映画が「灯台員夫婦のドラマ」という共通コンセプトを持った、まったく別の物語だからできること。しかし僕としては、前作に若い灯台員として登場した田村高廣あたりが、ヒョッコリと所長や教官役で登場してくれると面白いと思いましたけど……。

 前作は戦争をはさんだ「激動の昭和史」を物語の背景にしていましたが、この続編は平和な時代の物語です。それだけに、家族の絆というテーマが、よりストレートに全面に押し出されている。その要になるのは、やはり主人公の父親を演じている植木等だ。夫婦と子供だけの核家族に、突然祖父がやってくるという設定が、この映画の2年前に製作された『逆噴射家族』と同じなのが面白い。登場の仕方が、ほとんど同じなんだよね。

 この映画には、主人公夫婦の娘と結婚する若い海上保安庁職員役で、中井貴一が出演している。前作『喜びも悲しみも幾歳月』では、中井の父である佐田啓二が、娘を若い灯台守と結婚させる父親を演じていた。30年たって、その息子がまったく正反対の役で映画に出演する楽しさ。中井貴一が木下作品に出演しているのはこれ1本だけだから、監督も前作とのつながりをかなり意識してのキャスティングだったのだろう。

 加藤剛は生真面目な灯台員役を好演。しかしそれより素晴らしいのは、大原麗子演ずる彼の妻だろう。前作の高峰秀子もすごかったけど、この映画の大原麗子は、男なら誰でも「こんな奥さんがほしい!」と思わせます。


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