ニュートン・ボーイズ

1999/02/08 20世紀FOX試写室
今世紀初頭にアメリカ中を荒らし回った銀行強盗の実話。
物語は興味深いが映画は迫力不足。by K. Hattori


 今世紀初頭のアメリカで銀行や郵便貨物を襲い、数百万ドルという大金を強奪したニュートン兄弟の実話を映画化。この兄弟強盗団は調査と準備に時間と手間をかけ、数十件の強盗事件を行いながら、ひとりの死者も出さなかった。彼らが他のアウトローたちに比べて無名だったのは、犯行で血を流さないという「地味さ」と、平和を愛する一般市民として生きた晩年を、過去の勇名でかき乱されたくなかったからだという。他のアウトローたちがすべて短命に終わったのに比べ、ニュートン兄弟は全員が驚くほど長生きした。長男ドックは83歳で没、次男ウィリスは90歳、三男ジェスは73歳、末弟のジョーは88歳まで生きた。彼らはそれぞれ堅気の商売で成功し、穏やかな余生を楽しんだようだ。この映画は、1994年にクロード・スタヌッシュという作家が書いた兄弟の伝記を原作にしている。

 この映画の実質的な主人公は、兄弟のリーダー格である次男ウィリス。無実の罪で投獄された経験のある彼は、「正直者に生きても馬鹿を見るばかり」との信念から、銀行強盗の一味に加わる。しかし田舎町の小さな銀行に白昼堂々押し入っても、つまらない危険ばかり多くて身が持たない。ウィリスの偉いところは、失敗から学ぶ点だ。早速「銀行を襲うのは夜に限る」と方針転換し、自分の弟ふたりと爆破のプロであるグラコックをチームに引き入れ、アメリカからカナダまでの強盗行脚に出発する。やがて刑務所を脱獄した長男ドックも仲間に加わり、黄金チーム「ニュートン・ボーイズ」が誕生する。

 ウィリス役がマシュー・マコノヒー、ドック役はビンセント・ドノフリオ、ジェスにイーサン・ホーク、ジョーを演じるのがスキート・ウールリッチと、今ハリウッドで脂の乗った俳優たちが兄弟を演じているのが見もの。監督は『恋人までの距離〈ディスタンス〉』のリチャード・リンクレイター。脚本は原作者スタヌッシュと、監督のリンクレイター、製作のクラーク・リー・ウォーカーが共同で書いている。映画の最後に、実在のニュートン兄弟(次男ウィリスと末弟ジョー)がインタビューに答える映像が流れるのにもご注目。

 犯罪実録物としての面白さは確かにあるのだが、これだけのエピソードが詰まっていながら、僕はもうひとつ熱くなれなかった。既成のモラルに反逆するピカレスクの輝き、強盗シーンのスリルとサスペンス、逮捕後に警察と行われた息詰まる駆け引きなど、この映画に不可欠と思われる場面が皆無なのだ。最初の強盗シーンが、のどかな田舎町で、のほほんと行われるのはよい。しかし、その後すべての強盗シーンが、いちいち「のほほ〜ん」としているのでは興醒めしてしまうのだ。チーム内での葛藤やキャラクターの描き分けも不十分なので、計画が思いがけず失敗したときの対応にも、ドラマが白熱してこない。1920年代という時代背景が持つ「安っぽい成金趣味」のようなものも、雰囲気として伝わってこないのが残念。ストーリーだけは面白いんだけどね。

(原題:The Newton Boys)


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