踊れトスカーナ!

1999/02/24 ブエナビスタ試写室
平凡な会計士と若いフラメンコ・ダンサーの恋を軽快なテンポで描く。
ラストの台詞には「やられた!」という快い驚きがある。by K. Hattori


 トスカーナで会計士をしている平凡な男レバンテが、スペインから巡業に来たダンサーに一目惚れ。いろいろあって最後はハッピーエンドという、愉快で楽しいコメディ映画です。配給はディズニー系のブエナビスタですが、中身は正真正銘のイタリア映画。登場人物が全員魅力的で、嫌な話がひとつもない。それでいてドラマが一本調子になることなく山あり谷あり。1時間半強という最近の映画にしては短い時間の中に、映画の面白さがたっぷり詰まっていて大満足。映画史に残る長時間のキスシーン(なんと上映時間より長い)や、ここ数年に観た映画の中ではもっとも決まったラストの名台詞。笑って笑って、笑ったまんま、最後はジーンと心が温かくなる傑作です。邦題が安っぽく見えるのは『踊る大捜査線』をどうしても連想してしまうからで、この点が少し損していると思う。うちにはイタリア語の辞書がないので、原題の意味はわかんないや……。

 主人公は名実ともに平凡な男ですが、周囲の個性的な人物たちが物語を引っかき回します。元革命の闘志だった父親、声だけで姿が見えない祖父、変な絵を描き続けたあげく棺桶で眠る弟、レズビアンの妹。さらに、修理工場を経営する性の冒険家、その恋人のウェイトレス、客の行動を先読みする八百屋のオヤジ、妹の恋人もすごい美人だし、レバンテと少々わけありの女も登場して波乱含み。そして段取りの悪いマネージャーに率いられた、魅力的な5人のダンサーたち。タイトルに「踊れ」と入っている割には、ダンスシーンが少ないのが残念。それでも数少ないダンスシーンは、映画を観ながら一緒にリズムを取ってしまうような楽しさでした。

 映画の序盤は登場人物紹介だけで30分ぐらい使います。このへんは、ごく普通の低予算ほのぼの系映画。このまま1時間半行ってしまっても、別に構わないぐらい気持ちのいいゆったりしたテンポ。ここでようやくダンサーたちが出てきて主人公宅で1夜の宿を借り、去って行くまでに30分。このあたりから映画のテンポがどんどんあがってきて、少しずつ笑いが起き始める。一目惚れしたダンサーを追って、映画の舞台はフィレンツェへ。レストランで恋するダンサーの恋人を交えた食事会。ここで映画は一気にヒートアップし、笑いも頂点に達する。恋人連れのダンサーに焼き餅をやかせようと、わけありの女を同伴したら彼女が壮絶な暴露話を披露。それにウケまくるダンサーの恋人。このくだりは無茶苦茶面白いんだけど、マスコミ向け試写室だとみんなオスマシしていてクスリとも笑いが起きないのが辛い。僕はひとりで笑いをかみ殺してました。映画はこのあと、サラリとしゃれたオチを持ってきてエンドタイトル!

 とにかく無駄がない。短い距離を全力疾走して、息が切れたりスピードが墜ちてくる前にさっさとゴールインしてしまうような軽快さ。僕は好き。今年観た映画の中では、間違いなく10本の指に入る快作です。いい意味で期待を裏切られて、帰り道はホクホク顔でした。

(原題:IL CICLONE)


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