プッシャー

1999/03/03 メディアボックス試写室
デンマークの新鋭監督ニコラス・ウィンディング=レフンのデビュー作。
麻薬密売人が借金地獄にはまって行く物語。by K. Hattori


 コペンハーゲンで麻薬の密売をしている男を主人公にした、小品ながら切れ味の鋭いバイオレンス映画。監督・脚本はこの映画の製作時点で25歳のニコラス・ウィンディング=レフン。麻薬密売人(プッシャー)として近隣で顔を知られているフランクは、相棒のトニーと一緒に羽振りのいい生活をしていた。ボスのミロから借金をしているフランクだったが、売人として信用のある彼が一度大口の取引をすれば、それぐらいの借金は一度に返せてしまう……はずだった。ミロから再度金を借りて、一気に借金をチャラにできる大口取引に向かったフランクは、そこで警察の手入れにあって、とっさに持っていた麻薬をすべて水の中に捨ててしまう。裏切ったのはトニーなのか? 証拠不十分で釈放された彼を待っていたのは、ミロからの執拗な借金返済要求だった。

 自由気ままな生活を謳歌していた主人公が、突然思いがけない負債を背負わされ、がんじがらめになってゆくサスペンス映画。主人公のフランクの頼みの綱が次々に途切れ、孤立無援になって行く様子がスリリングに描かれている。登場人物の数は少ないが、キャラクター造形がそれぞれしっかりしているため、どんな小さな場面にも芝居にリアリティーがある。中でも印象的なのが、主人公フランクと愛人(?)ヴィクの関係と、フランクのボスであるミロのキャラクター。フランクとヴィクの関係が一種のプラトニック・ラブとして描かれているのが面白く、これが終盤のサスペンスを大いに盛り上げる。フランクを追いつめて行くミロと、その手下ラドヴァンの持つ、人なつこさと冷酷さのコントラストも薬味が利いた演出になっている。加えてミロやラドヴァンは、スウェーデン人という設定なのかな……。

 フランクが総額でいくらの借金をしていて、手持ちの現金がいくらあって、よそに貸している金がいくらあるのかが把握しにくいのが欠点。ミロにしている借金の額は何もしなくても倍々に増えて行くので、映画の途中で観客は「どうせ全部は返済できっこない」と思ってしまう。借金が返せなければ、ラドヴァンの過酷な取り立てにあって殺されるのがオチだ。ならフランクは逃げるしかないではないか。僕は映画を観ている途中から、フランクがなぜ逃げ出さないのか、それが不思議でならなかった。フランクの側に借金を返すアテが少しでもあるのなら、それぞれの金額を明確にして、借金が返せるか返せないかというギリギリのスリルを生み出してほしかった。事前に伏線が張ってあるとはいえ、追いつめられると突然どこからか多額の現金が出てきたり、仕入れた麻薬が手に入ったりする点が気になる。

 トニーやヴィクをもっと効果的に使えば、フランクの懐具合をもっと具体的に観客に示す方法はあるはずです。とくにヴィクの使い方はもったいない。例えば、フランクが彼女には自分の窮状をすべて告白しているという設定にすれば、観客にもフランクの状況がひとめでわかるし、幕切れのオチもさらに衝撃的になったと思う。

(原題:PUSHER)


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