イフ・オンリー

1999/03/08 シネカノン試写室
「別れた彼女ともう一度やり直したい。時間よ戻れ!」
そう思ったら、その通りになりました。by K. Hattori


 失恋の痛みは、あとからじわじわ効いてくる。「あの時ああしていれば」とか、「あの一言さえなければ」とか、「もっと誠実な態度をとるべきだった」と後悔しても、その時はもう遅い。一度離れた相手の気持ちは容易に修復できず、取り残された側はひとりほぞをかむばかり。「あの人こそ運命の人だったのに」「人生で一番大切なものを無くしてしまった」と思っても、時間は後戻りしないのだ。男も女もいっぱしの年齢になれば、そんな思いをしたことが一度や二度はあるだろう。

 この映画の主人公ヴィクターも、そんな後悔の念にさいなまれている。売れない役者の彼は6年つきあった恋人シルヴィアを裏切って劇団の若い女優と浮気し、長年の恋愛に自らピリオドを打ってしまった。しかし新しい恋人とはうまくいかず、自分が本当に愛していたのはシルヴィアだったと悟った頃には、彼女には新しい恋人ができて永久に手の届かないところに行ってしまったのだ。仕事も手に着かず、生活も荒れ果て、飲んだくれて夜の町をさまよう彼は、不思議な男たちに出会う。次の瞬間、ヴィクターはシルヴィアと別れる直前の時間に、自分が戻っていることを知る。何が起こったのか瞬時には理解できないが、とにかく今は、シルヴィアを手放さないのが先決。彼は劇団の若い女優と早々に手を切り、シルヴィアとの生活を守りぬこうと決意する。だが運命の歯車は、彼らふたりをハッピーエンドに運んで行かない。

 最近公開された『スライディング・ドア』にも通じる、人生の中にある「もしもあの時」を描いた映画だ。主人公ヴィクターを演じたダグラス・ヘンシャルにはあまり馴染みがないが、シルヴィア役のリナ・ヒーディ(レナ・ハーディだと思ってました)は『フェイス』でロバート・カーライルの恋人を演じていた女優。シルヴィアの親友アリソンを演じているのは、『フォー・ウェディング』のシャーロット・コールマン。売れない作家のルイーズを演じているのは、間もなく公開されるスペイン映画『オープン・ユア・アイズ』でヒロインを演じているペネロペ・クルス。監督のマリア・リボルと脚本のラファ・ルソは、これが長編映画デビュー作です。イギリスが舞台のイギリス映画ですが、監督・脚本・製作に加え、ヒロインのひとりもスペイン人という、ちょっと毛色の違った映画になっているのも特徴。

 映画の序盤はヴィクターのシルヴィアへの愛情が単なる執着と嫉妬に見えてしまって、あまり面白いと思えなかった。でも中盤以降はすごく面白いし、最後のオチの付け方も十分予想されたものとはいえ満足できました。登場人物も少ないし、場面転換も単純なので、これは舞台劇に脚色することもできそうです。脚本のラファ・ルソは、主人公のヴィクターと同じように、長年つきあっていた彼女と別れて一目惚れした彼女と交際を始め、あとからすごく後悔したことがあるんだとか。似たような経験を持つ人なら誰でも共感してしまう、ファンタジックなラブストーリーになっています。

(原題:IF ONLY)


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