ブルワース

1999/03/23 FOX試写室
大統領選の泡沫候補が放送禁止用語で一躍時代の寵児になる。
ウォーレン・ビーティ主演の政治コメディ映画。by K. Hattori


 1996年、クリントン再選の年。民主党から形ばかりの対立候補として立候補したジェイ・ブルワースは、形ばかりの対立候補の名に恥じない、ごく目立たない泡沫候補のひとりだった。彼の支持者も選挙スタッフも、彼が正式な大統領候補になるなどとは夢にも思っていない。ところが気の小さい彼は、積み重なるストレスにノイローゼ気味。投機の失敗で無一文になったことも、彼の頭痛の種だった。不眠症と拒食症に陥った彼は、ある日突然プッツンしてしまう。彼は自分自身に多額の生命保険金をかけ、殺し屋に自分の暗殺を依頼する。命を捨ててかかれば、世の中に恐いものはない。彼は当たり障りのないスピーチ原稿を破り捨て、人生最後の瞬間まで本音で生きようと決意した。政治献金なんてクソ食らえ。明日のことなど知ったことか。彼は行く先々で言いたい放題の本音トークをまき散らし、もくろみとは裏腹に、アメリカ中の注目を浴びる有力候補になって行く。

 ウォーレン・ビーティが、製作・脚本・監督・主演を兼ねた政治コメディ。アカデミー賞ではオリジナル脚本賞にノミネートされていた作品だが、思ったほど面白くなかったというのが正直な感想。虚構と現実を織り交ぜた手法はユニークだし、睡眠不足で意識がもうろうとした破れかぶれの政治家が、政治的にはタブーになっている事柄を放言しまくるというアイデアも面白い。しかし映画を観ていてもそれが常に他人ごとで、「それがどうしたの?」という気にさせられてしまうのだ。政治の世界という一般人には馴染みの薄い異世界を描くのなら、一般の人の視点を代弁する観察者を物語のどこかに置くのが定石。しかしこの映画では、頭プッツンのブルワース上院議員の視点で全編を押し通してしまうため、観客と物語の接点が生まれず、遠い世界の物語のまま終わってしまう。同じ政治コメディでも、このあたりは『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』や『パーフェクト・カップル』の方がうまいと思う。

 映画の中で観客の代わりに働けるポジションにいるのは、選挙参謀のマーフィか、ボランティアとしてブルワースの側にはりつく黒人女性ニーナだろう。ただし後者はある種の下心がある人物なので、容易に観客の代弁者にはなれない。消去法で行くと、観客の視点を代弁するのはマーフィということになる。おそらくこのマーフィという男の弱さが、この映画の弱さに直結しているのではないだろうか。演じているオリバー・プラットも悪くはないのだが、この役にはもっとアクの強い俳優をキャスティングした方がいい。彼に感情移入した観客が、彼と一緒にブルワースの一挙手一投足に振り回されないと、この映画は楽しめないと思う。

 アメリカ人が観ると、この映画は選挙番組のパロディとして面白いのでしょうし、政治タブーへの辛辣な切り込みも痛快なのでしょう。でもそれが、日本人には同じように楽しめないのです。主人公の下品な台詞も、戸田奈津子さんが訳すと上品になっちゃうのかな……。

(原題:BULWORTH)


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