天使に見捨てられた夜

1999/04/05 TCC試写室
かたせ梨乃扮する私立探偵が消えたAVギャルの行方を追う。
情感に偏りすぎでミステリーとして未完成。by K. Hattori


 姿を消したAV女優を捜して、女探偵・村野ミロが新宿の闇に潜り込んで行く。『リアルレイプ』と題されたAVに主演した一色リナを探すよう依頼したのは、ミロの友人でもある渡辺房江。ビデオで描かれているレイプが芝居やヤラセではなく、本物のレイプではないかという疑いがあり、それを立証するために被害者と思われるリナ本人の証言が必要なのだという。だがビデオを製作したプロダクションやモデル事務所に聞いても、リナの行方を素直に教えてくれそうもない。それどころか、ミロの調査を妨害するため、彼女が可愛がっていたネコを殺すという脅迫まで行われる……。

 主演はかたせ梨乃。役の上では38歳という設定だが、彼女の実年齢はそれより少し上。それはそれで、一向に構わない。ただ、ミロと深い関係になるAVビデオメーカーの社長・矢代役が永澤俊矢で、その年齢が40代半ばという設定なのだ。永澤俊矢は、まだ30代半ばだ。ここでは役者の実年齢と役柄の年齢が、二重に逆転している。かたせ梨乃と永澤俊矢がツーショットになると、どう見てもかたせ梨乃の方が年長に見えてしまうのだ。これでは、女ひとりで突っ張って生きてきたミロが、矢代の前で女としての弱さをさらけ出してしまうという展開に無理が出てしまう。永澤俊矢は男の匂いをプンプンさせるいい役者だが、長年『極道の妻たち』でヤクザの姐さんを演じてきたかたせ梨乃と並ぶと、どうしたって貫禄負けしてしまう。矢代がミロをもてあそび翻弄するのではなく、ミロが若い矢代をつまみ食いしているように感じられてしまうのには困ったものだ。

 それに対して、ミロの隣室に住むバーの経営者・友部を演じた大杉漣は素晴らしい。チマチマした演技なしに、正真正銘のゲイになりきっている。それでいて、頼りがいのある大人の男の魅力がプンプンするという、かなり難しい役どころだと思うのだが、大杉漣が演じるとじつにサマになるのだ。この映画の中では、大杉漣演じる友部が、もっとも穏やかな生き方をしている。しかしそこに至るまでには、数々の修羅場をくぐり、人生の辛酸をなめてきたのだろう。何しろ1度結婚して、中学生の娘がいるという人なのだ。彼の優しさや懐の深さは、彼の流してきた血や、捨ててきたものの大きさを表している。人一倍傷ついたからこそ、誰よりも優しくなれるのだ。

 この映画は謎解きが物語を引っ張るミステリー仕立てなのに、脚本があまりロジカルにできていないのが致命的な欠点だ。ミロの最初の目的がリナの捜索だったため、終盤でリナが画面に登場すると、その時点で物語の推進力がなくなってしまうのだ。主人公が最初は依頼で動いていたにせよ、途中から彼女独自の捜査動機が生まれないと、この物語は成立しない。その動機は、矢代との関係の中から生まれるのか、それとも友人である渡辺が殺されたことから生まれるのか……。このあたりが未整理なままなので、物語のクライマックスが蛇足気味に見えてしまうという、残念な結果になった。


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