アナザー・デイ・イン・パラダイス

1999/04/14 徳間ホール
中年・若年2組のカップルが、ヤバめの泥棒旅行に出発進行。
『KIDS』のラリー・クラーク監督最新作。by K. Hattori


 ボビーは深夜にコミュニティカレッジの自販機を荒らして小銭を盗み出すが、警備員に発見されて格闘になり、手持ちのドライバーで警備員を刺して逃げ出す。このくだりは、今時の「自己中心的で、すぐにキレる若者」を絵に描いたようだった。ボビーは盗みを悪いことだと思っていない。警備員を刺したのは自分の身を守るためで、彼がどうなろうと知ったことかという態度。むしろ殴られて血まみれになった自分の顔を鏡で見て、大いにショックを受けている。そんな太々しさに目を付けたのが、相棒を捜していた中年泥棒のメル。彼は医者から麻薬を盗み出す大仕事に、年端もいかないボビーを引っ張り込む。幼い頃、父親から虐待を受けていたボビーは、自分を一人前扱いしてくれるメルに心酔してしまう。

 衝撃的なデビュー作『KIDS』で世界中を驚かせた、ラリー・クラーク監督の最新作。『KIDS』ではエイズにかかった少女が、ボーイフレンドを捜して街の中を放浪するロード・ムービーだったが、今回の映画もロード・ムービーだ。中年の泥棒メルを演じているのはジェイムズ・ウッズ、その情婦シドがメラニー・グリフィス。若いボビーを演じるヴィンセント・カーシーザーは、ディカプリオをもっとシャープにしたような中性的顔立ちの美少年。恋人ロージー役のナターシャ・グレッグソン・ワグナーは、雰囲気がちょっとウィノナ・ライダーの若い頃(今でも若いけど)に似ているかもしれない。

 この映画で面白いのは、登場人物たちに罪の意識や良心の呵責がまったくないこと。犯罪者は自分たちの行為を反省したり後悔したりしない。自分は何をしても捕まらないという圧倒的な確信が、彼らを大胆にさせ、犯罪を成功に導くのです。もちろん小さな失敗はある。でも、それにクヨクヨしていると、次の仕事が出来なくなる。仕事を手控えて守りに入ると、その時点からすべての行動は「逃避行」になってしまう。俗に「ヤキがまわった」「シリに火がついた」というやつです。

 犯罪は山登りに似ています。高い岩山に登るとき、自分が足を踏み外すことを考えはじめたら、その場から一歩も動けなくなってしまう。犯罪も同じ。物語の冒頭でボビーが警備員を刺しますが、刺された警備員がその後どうなったのかはまったく描かれない。刺した相手の生死を考えるのは、自分が捕まった時のことを考えるからです。自分が捕まることなど毛ほども考えつかない人たちにとって、自分が相手を刺した行為さえ肯定できてしまえば、相手の生死などどうなろうと構わないのです。

 物語の視点は若いカップルの側にありますが、この映画の主役はやはりメルとシドの中年カップルでしょう。特にメラニー・グリフィスが素晴らしかった。この役は、彼女以外に考えられないぐらいのハマリ役です。「あたしがユダヤ人のスケよ!」と叫びながらショットガンをぶっ放すシーンの格好よさ。女のか弱さと可愛らしさに、男たちを包み込む母性、いざとなれば銃を取って戦うタフネスぶりを兼ね備えた、まさに理想の女です。

(原題:ANOTHER DAY IN PARADISE)


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