スカートの翼ひろげて

1999/04/16 GAGA試写室
第二次大戦中のイギリスに実在した女性農業ボランティア。
銃後から見た戦争を描く異色ドラマ。by K. Hattori


 第二次大戦中のイギリスでは、男たちが戦争に行ったことによる労働者不足を補うため、多数の女性たちが社会に出ていった。「ランド・アーミー」と呼ばれた農業促進婦人会も、そうした女性組織のひとつ。彼女たちは都会の研修所で一定期間の農作業訓練を受け、少人数のグループに分かれて地方の農家で住み込みの労働奉仕を行なった。この映画はそんな実話をもとにしたアンジェラ・ヒューズの原作小説を、『あなたがいたら/少女リンダ』のデビッド・リーランドが脚色・監督したヒューマンドラマだ。第二次大戦中にはアメリカでも日本でも、同じように女性たちが社会に出ていった。戦後女性の社会的地位が向上したのは世界的な現象ですが、そこには戦争中、女性たちが否応なしに「女も仕事が出来る」ことを証明させられたという経緯があったのです。

 映画の主人公は、農業ボランティアで田舎町の農家を訪れた3人の女性たち。農家の主は最初彼女たちの働きぶりに半信半疑なのだが、いざ働き出すと立派に仕事をこなすのでビックリする。このあたりまで観て、僕はてっきり、女子挺身隊を扱った黒澤明の映画『一番美しく』のイギリス版になるのだろうと早合点してしまった。確かにこの映画には、女性たちが農場で友情を深め、人間的に成長して行く様子が描かれています。しかし、この映画でテーマになっているのは、直接の戦場からは遠く、戦争とまるで無縁に思える場所に忍び寄ってくる戦争の影。この作品は、銃後の守りについた女性たちの視点から描いた、異色の戦争映画なのです。

 食糧増産のため、牧草地は次々に畑に変えられて行く。丘陵地帯に広がる牧草地の美しい風景を愛し、役人たちの押しつける無粋な増産計画に反対し続けている農場主は、自分の愛する風景の中で「ここには戦争がなくて平和だ」とつぶやく。彼にとってボランティアの女性たちは、自分には縁遠い世界で起きている戦争の象徴です。彼女たちの働きぶりに感心しながらも、彼女たちの姿を見ると自分も戦争を意識せざるを得ないことが腹立たしいのです。彼は自分の愛する場所を無傷で残しておくことで、目の前にある戦争から目を背けている。しかし軍人と婚約している主人公は、そんな農場主の自己欺瞞が許せない。彼女は牧草地にトラクターを入れることで、農場主を現実逃避から引き戻してしまいます。残酷なようですが、それが戦争というものなのでしょう。

 農場に来た3人の女性は、それぞれが新しい恋に出会います。戦争という巨大な暴力装置はあらゆる人間をがんじがらめにしてしまいますが、その中にも、人間らしい営みの余地はある。しかし、戦争はそうして得られた小さな幸せを、無惨にも破壊して行く。この映画は反戦映画ではありませんが、戦争が戦場以外の場所にも無惨な傷跡を残していくことをリアルに描いています。

 映画はクライマックスがちょっと弱い。ここできちんと泣けるようになっていると、この映画は傑作だったと思うんですが……。でも、僕は気に入った映画です。

(原題:The Land Girls)


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