ザ・メイカー

1999/05/12 映画美学校試写室
『ベルベット・ゴールドマイン』のJ・リース・マイヤーズ初主演作。
配役はしっかりしているが物語が弱い。by K. Hattori


 『ベルベット・ゴールドマイン』で、グラムロック界のカリスマ的ミュージシャン、ブライアン・スレイドを演じていたジョナサン・リース・マイヤーズの初主演映画。配給会社の売りは明らかにマイヤーズなのだが、その他のキャストも名の知れた人ばかりで、映画ファンなら「むむっ」と唸ることでしょう。マイヤーズの兄を演じているマシュー・モディーン。美しい婦人警官役のメアリー・ルイーズ・パーカー。薬中のギャングを演じているマイケル・マドセン。そしてプレスではまったく無視されていましたが、個人的にはファイルザ・バーク(ファイルーザ・バルク)の出演が嬉しかった。今回は主人公の親友で、レズビアンの不良娘という役です。

 この映画、話の設定には無茶があるし、組み立てもあまりうまくない。話のあちこちに不明確なところがあって、物語の中で何が起こっているのか、きちんと理解できない部分さえある。それでも映画が最後まで面白く観られるのは、やはりジョナサン・リース・マイヤーズという役者の存在感ゆえでしょう。強さともろさ、剛直さと繊細さが同居する、主人子の微妙な心理状態。それを凡庸な青春スターが演じただけでは、気持ちを言葉で説明するだけになってしまって、面白くも何ともない映画になったと思う。この映画は、リース・マイヤーズが主演することによって、あまたある「異色の青春映画」から一歩抜きん出ている。これは演技力云々の問題ではありません。

 『ベルベット・ゴールドマイン』のヒットがなければ、これは絶対に日本で公開されなかったでしょう。この映画を「幻の主演デビュー作」として売ろうとするあたりは、ブラピの初主演映画『リック』が公開された時を思い起こさせます。ただし俳優としての存在感は、『リック』主演時のブラピより、この映画のリース・マイヤーズの方がはるかに充実しています。僕は『ベルベット・ゴールドマイン』という映画が特に好きではないし、リース・マイヤーズも注目株という意識はなかったのですが、今回この映画を観て、リース・マイヤーズの名前と容貌を強く印象づけられました。今後の彼には注目すべきでしょう。

 良くも悪くもリース・マイヤーズ中心の映画で、ドラマとしての焦点がボケているのは残念。マシュー・モディーンやメアリー・ルイーズ・パーカーという中堅どころの役者が脇を固めていても、結局のところこの映画が何を言いたいのかはよくわかりません。主人公ジョシュが夜毎見る悪夢の正体を探るミステリーでもないし、血のつながった兄弟の確執でもない。年上の女性に対する憧れが描かれてはいますが、相手の女性が彼をどう思っているのかもよくわからない。すべてがフワフワしていてつかみ所がないのです。ファイルザ・バークが後半で消えてしまうのも、それによって主人公の孤独感を際だたせようと言う目的はわかるものの、いかにも唐突すぎます。

 主人公を取り囲む人々の背景がもう少し丁寧に描かれていると、個人と個人がぶつかって生まれる葛藤が際だって、もう少しコクのある映画になったと思うのですが。

(原題:THE MAKER)


ホームページ
ホームページへ