ヴァンドーム広場

1999/05/27 徳間ホール
カトリーヌ・ドヌーヴがアル中気味の宝石商未亡人を演じている。
この話なら、もっと面白く作れるはずなんだが。by K. Hattori


 カトリーヌ・ドヌーヴ主演のサスペンス・ラブ・ストーリーですが、僕はこの映画がよくわからなかった。テーマが難解だとか、解釈に苦しむとか、そういうレベルのわかりにくさではなく、物語の筋立て自体がよく飲み込めないのです。マスコミ向けの試写会ではプレスシートという簡単なパンフレットが配られ、出演者とスタッフの経歴、解説、ストーリーの概要などが書いてあります。映画を観終わって釈然としなかった僕は、そのストーリーをちょっと読んでみたのですが、話の内容自体は僕が映画から読み取ったものと変わりはなかった。ちょっとがっかり。たったこれだけの話なら、もっと別の語り方があったのではないだろうか。

 この映画をわかりにくくしている原因は、物語の構成法にあります。物語の進行にあわせて、主人公の過去が少しずつ明らかになっていくという構成そのものは、特に難しいものではありません。しかしこの映画では、後から明かされた過去の出来事によって、それ以前に描かれた主人公の行動が説明されるという部分が何度も出てきます。物事の因果関係が伏せられたまま物語が進行し、後になってその原因が明かされる手法自体はミステリー映画の定石ですが、その場合、過去の事件そのものが映画全体を引っ張る「謎」として機能していることが重要。主人公の過去を解き明かすこと自体が映画の目的ならば、こうした構成でも構わないのです。しかし、この映画はそういう話ではない。この映画の「謎」は、伏せられた過去ではなく、主人公が進んで行く未来にあります。

 主人公マリアンヌは、パリのヴァンドーム広場にある有名宝飾店の社長夫人として、何不自由のない生活をしている女性です。彼女は20年前まで、宝石の世界では知らぬ者のいない、一流の女性ディーラーだった。しかし現在の彼女は、酒浸りの生活とアル中更生施設を行き来するばかり。彼女は不幸です。かつての輝きはどこにもありません。なぜ彼女はかつての輝きを失ってしまったのか……。これが、彼女の過去にまつわる謎です。

 ところが物語は、彼女の夫が自殺したことから大きく動き出す。盗まれた宝石をめぐる疑惑や、宝石店の買収話、店の女性ディーラーと中年男の恋愛問題など、さまざまな事件が次々に起こって、最初に「謎」として提示された主人公の過去には、いつまでたっても話が進んで行かない。結局彼女の過去が明らかになるのは、物語が終盤に差し掛かってからなのです。僕はその頃になると、もはやすっかり彼女の過去に対する興味が薄れてしまい、話を聞いても「あ、そうですか」という感じでした。

 自分が全生涯をかけて愛した男に裏切られた女が、長い年月を経て彼に再会したときどう行動するか。それがこの映画本来のテーマだと思う。しかしこのテーマを描くのであれば、彼女の過去は映画の前半で語っておく必要があるのではないだろうか。そうすることで、彼女のその後の行動の意味が観客に伝わり、最後の再会シーンも濃密なものになったと思う。

(原題:PLACE VANDOME)


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