黒の天使
Vol. 2

1999/06/03 松竹試写室
天海祐希主演のバイオレンス映画だが、これは暗すぎる……。
葉月里緒菜主演の前作以上にダメだった。by K. Hattori


 映画を観た後、「つまんないじゃねぇか!」「金返せ!」と怒り心頭に発した経験は誰もが持っているでしょう。しかし本当につまらない映画は、そんな怒りすらわき上がってこないものです。ネガティブな反応とはいえ、怒りや憎悪の声が浴びせられるというのは、その映画が観客に何らかの感情的変化を生み出したという証拠に他ならない。世の中には、そうした反応すら得ることができない、本当につまらない映画が存在するのです。観る者にとって、それは暗室の牢獄。暗闇にただじっと座って、フィルムにエンドマークが出るのを今か今かと待っているしかありません。この手の映画は、年に数本が必ずあるようです。今回この映画を観て、久しぶりにそんな「牢獄体験」をさせられました。

 この映画はシネマジャパネスク作品として2年ほど前に製作されたものの、待機中に松竹内紛劇が起こって正規の公開がずっと延び延びになっていた不遇な作品です。『黒の天使 Vol.1』が葉月里緒菜主演のダメダメ映画だったので、その影響もあったのかもしれません。僕は前作を観て「これほどひどい映画はそうそう作れまい」と思ったので、今回は少し期待していた。主演は宝塚出身の天海祐希。上背のある彼女がハードボイルド・タッチのアクションをやれば、見応えのある作品になるだろうと思ったのです。でも、ダメだった。今回もダメ。腹も立たないぐらいダメということは、前作以上にダメだということ。前作ではまだ作り手側のやりたいことが何となく理解できたし、それが成功しているか失敗だったのかは別として、ある種の意欲のようなものが感じられた。ところが今回の映画はそれすらない。勘弁してよ……。この映画には、死と暴力とセックスしかない。それが石井隆の世界なのだと言ってしまえばそれまでだけど、こんなに陰々滅々とした世界に天海祐希という女優を放り込んでも、場違いでしょうがないのです。

 僕は天海祐希の出演する映画を全部観ていますが、どういうわけか彼女はいつも暗い役ばかり。『MISTY』『クリスマス黙示録』『必殺!三味線屋勇次』『残侠』……。この中で辛うじて彼女が光っていたのは『必殺!三味線屋勇次』ぐらい。あとは軒並みダメな映画でした。華やかな宝塚歌劇のトップスターだった人が、なぜいつも陰気な顔ばかりしているのか、僕にはまったく理解できない。天海祐希という女優は、陽気なラブコメディなどで本領を発揮するタイプだと思うんだけどな。彼女は宝塚の男役出身で背も高いので、自然と男勝りの役を振ってしまうのだろうか。いかにも安直。僕なら彼女の背の高さや宝塚という経歴をふまえて、まったく別の企画を考えるけどね。もちろん、陽気なラブコメで。

 彼女ほどの逸材を、日本映画界はなぜ上手に使いこなせないのだろうか。このままCMやテレビドラマの中だけに埋もれさせてしまうのは、いかにももったいないぞ。宝塚時代からの彼女のファンも、彼女が映画の中で光り輝くのを、首を長くして待っているだろうに……。


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