これが人生?

1999/06/12 パシフィコ横浜
(第7回フランス映画祭横浜'99)
農業を継ごうとする青年の姿を通して「自分の人生」の大切さを描く。
映像もものすごくきれい。これは傑作です! by K. Hattori


 今年のフランス映画祭で観た映画の中では、現時点でこれがナンバーワンの作品。農家の長男に生まれた主人公は、祖父や父の仕事を手伝いながら「将来は農家を継ぐのだろうか?」「自分には何か別の仕事があるのではないか?」と考えている。農作業は嫌いではないのですが、いつも金策で青い顔をしている父親を見ると、積極的に農家を継ごうという気持ちにはなれない。主人公の父親は、自分の父親がはじめた農業を無理やり継がされたと感じている。息子に対しては、自分の好きな道を歩いていけばいいと思っている。父親は惰性で農業をやっているのです。食うためには仕方がない。他に何も出来ないのだから……。しかし積み重なる借金を苦にして、父親は自殺してしまう。しっかり者の祖父は、自分の息子の死を素直に受け入れられず、すっかりボケてしまう。家族を養う責任が、否応無しに主人公の両肩にかかってくる。農場は借金のかたに、祖父母は老人ホームに入り、母親は不倫、妹も家に寄り付かない。父親の自殺をきっかけに、家族はばらばらになってしまいます。

 ここまでが映画の前半。借金に依存した農家の悲惨な経済状態や後継者不足の問題など、ここに描かれた内容は日本の農家にも当てはまるものが多いのかもしれない。ただこの映画の中で違うのは、農業が先祖伝来の仕事ではなく、祖父の代に始まった家業だという点です。ヨーロッパの農業は他の商売と同じように、農地を売ったり買ったりして、やりたい人が自由に手を染めることができる仕事です。これは先日観た『スカートの翼ひろげて』というイギリス映画にも出てきた。この映画に登場する祖父にとって、農業は自分が選びとった仕事です。でもその息子は、あまり農業に向いていなかった。彼にとって、農作業や農場経営は苦労ばかり多くて、楽しむところのない作業なのです。農家の3代目になった主人公は、悩んだ末に、自分で農業という仕事を選びとる。それが最後のハッピーエンドにつながるのだと思う。

 この映画は撮影がとても見事。絵はがきや風景画のような風景画次々に登場します。カメラマンはテツオ・ナガタという日本人。幾度か登場する朝焼けの風景など、空気の質感まで伝わってくるような映像に、うっとりとすることが何度もありました。黄金色に色付いた山の中を主人公たちが進んでゆく場面も、「金むく」とでも形容したいような色彩感覚に圧倒されます。人物と風景の対比なども、非常に絵画的でした。撮影時に色を整理し、音楽に琴を使っていることもあり、フランスの風景が東洋の水墨画のようにも見えてきます。

 オープニングとクライマックスに同じような場面を用い、主人公の成長ぶりを示すと同時に、新たな家族関係の始まりを暗示させるのはうまい。これだけだと小さく閉じてしまう物語に、エピローグ風のエピソードを付け加えて外部に開かれたハッピーエンドにしているのも素晴らしい。資料には日本の配給会社が記載されていませんが、これはどこかに買ってほしい映画です。

(原題:C'EST QUOI LA VIE?)


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