グロリア

1999/06/22 ヤマハホール
ジョン・カサヴェテスの代表作をシャロン・ストーン主演でリメイク。
オリジナルの足元にも及ばぬ魂のない映画だ。by K. Hattori


 1980年に製作されたジョン・カサヴェテス監督の代表作『グロリア』を、シャロン・ストーン主演、シドニー・ルメット監督でリメイクした作品。ギャング組織の金を横領した会計士一家が殺され、ただひとり生き残った少年を、ギャングの情婦だった女が助けてニューヨーク中を逃げ回るという物語だ。20年近く前の映画を現代風にリメイクするにあたり、会計帳簿がフロッピーディスクになるといった変更はあるが、基本的な人物配置やストーリーはまったく同じ。最大の変更点は、オリジナル版では中年のオバサンだったグロリアを、若くてセクシーなシャロン・ストーンに演じさせていることだ。これによって、物語の雰囲気はかなり変わったし、物語の筋立てそのものもアレンジされている。

 オリジナル版のグロリアは、殺された一家と同じフロアに住む一人暮らしの中年女で、若い頃はギャングの情婦をしていたものの、今はそうした生活から足を洗って堅気の生活をしているという設定。彼女はやくざな生活から抜け出ると同時に、「女」であることからも引退して余生を送ろうとしている人物。そんな彼女が少年を守るという行動を通して、母性と女に再び目覚めて行く。中年オバサンの顔の下から、時折かつての「いい女」ぶりが見え隠れするのがミソでした。一度は輝きを失った女が、事件の中で再びかつての輝きを取り戻すのです。今回のリメイク版では、シャロン・ストーンが最初から「いい女」として登場するため、地味な女がかっこよく変身して行くダイナミズムは味わえない。周囲に裏切られ続けて人間不信になった女が、少年との交流を通して優しい気持ちを取り戻すというのがテーマになっている。

 ジーナ・ローランズの『グロリア』では、主人公が中年女である点がキーポイントだった。今回の映画では最初からシャロン・ストーンがセクシー度満点で、「私はジーナ・ローランズじゃないのよ!」「私のグロリアは昔の中年女とは一味も二味も違うのよ!」とアピールしている。序盤のこの開き直りは評価したい。オリジナル版ではグロリアが警察に駆け込まない理由がいまひとつ不明確だったのだが、今回は彼女がフロリダの刑務所を出たばかりの保護観察中で、ニューヨークに来ていることがばれると刑務所に逆戻りになるという「カセ」を作っている。組織は警察幹部の多くを賄賂で手なずけ、グロリア探しに協力さえさせている。彼女はギャングと警察の両方から追われるのだ。主人公の追いつめ方は、リメイク版の方が徹底していると思う。

 映画の中から「人生の重み」を感じさせたオリジナル版に比べると、リメイク版は普通のサスペンス映画になってしまった。シャロン・ストーンにグロリアを演じさせるなら、ジーナ・ローランズでは演じられなかった新しいグロリア像を作らなければならないのに、いつも肝心なところでオリジナル版に引きずられる弱みがある。もっとシャープかつスピーディーに撮る力量を、老人監督シドニー・ルメットに求めても無理なのか……。

(原題:GLORIA)


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