ヌレエフ
I AM A DANCER

1999/06/28 シネカノン試写室
天才バレエ・ダンサー、ルドルフ・ヌレエフのドキュメンタリー映画。
スタジオ収録の『マルグリットとアルマン』は感動的。by K. Hattori


 1961年にソ連から西側に政治亡命し、英国のロイヤル・バレエ団を中心に華々しい活躍をした天才ダンサー、ルドルフ・ヌレエフを主役にしたドキュメンタリー映画。ヌレエフはダンサー、振付師、演出家として'80年代まで旺盛な活動を続けるが、'93年にエイズのため死亡。身体を鍛え抜き、酷使するダンサーという仕事は、体力面でのピークと技術の円熟が一致する期間が本当に短い。映画が製作された'72年は、ヌレエフがダンサーとしての絶頂期を迎えていた時代。僕はバレエについては興味も関心もない素人の門外漢だが、ここに登場するヌレエフを観ていると「人間の身体って、こんなに自由自在に動くものなのね……」と感動してしまう。もちろん自由に動かすためには、それ相当の訓練が必要なわけだし、この映画にはその訓練風景もたっぷりと収録されている。天才も汗を流しているのです。

 この映画は「ヌレエフの伝記映画」ではないが、映像の端々から彼の人生がうっすらと見えてくるところもある。それだけ、取材の対象に接近しているということだ。映画を構成しているのは、得意演目のハイライトシーン、練習風景、指導者としての仕事ぶり、楽屋での姿、共演者のコメント、観客やファンの表情など。最大の見どころはやはり、彼がカメラの前で踊ってみせる幾つかのハイライトシーンだろう。収録されている演目は、19世紀の古いバレエ『ラ・シルフィード』、モダンダンス風の新作『フィールド・フィギュア』、「椿姫」をバレエ化した新作『マルグリットとアルマン』、チャイコフスキーの『眠れる森の美女』など。僕はモダンダンスがどうも苦手で、『フィールド・フィギュア』だけは少し寝てしまった。(僕はミュージカル映画に出てくるモダンダンスの場面も退屈で仕方がない。『パリの恋人』や『魅惑のパリ』にもモダンダンスが取り入れられているけど、僕にはひどく退屈なものに思えてしまう。当時の観客には、これが面白かったのかなぁ……。)

 演目の中で一番面白く感動的なのは、ヌレエフにとって最高のパートナーと言われるマーゴ・フォンティンとの共演作『マルグリットとアルマン』だろう。この演目に関しては、ヌレエフもすごいけどフォンティンがそれに輪をかけてすごい。アルマン(ヌレエフ)との別れを決意した椿姫ことマルグリット(フォンティン)がひとりさめざめと泣く場面は、彼女の両頬を流れる涙が見えるようで、観ているこちらも思わず胸がつまった。この演目はもともと舞台作品として人気があったものを、映画のためにスタジオで収録し直している。画面処理がうっとうしい場面もなくはないが、こうして素晴らしいパフォーマンスを記録しておいてくれたことはありがたい。

 バレエに興味のある人しか観ない映画だと思いますが、何かの間違いでバレエに興味のない人(僕みたいな人)が観ても十分に楽しめる映画だと思います。古典から原題の新作、モダンダンスまで収録されているので、バレエの入門書的な楽しみ方もできるかもしれません。

(原題:I AM A DANCER)


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