Born to be ワイルド

1999/07/01 東宝東和試写室
野生動物ドキュメンタリーを作ろうとする3兄弟の冒険譚。
南部流のトール・テールに抱腹絶倒。by K. Hattori


 1967年の夏。アーカンソー州の片田舎に、映画の魅力に取りつかれた3人の兄弟がいた。彼らは一番下の弟をスタントマン替わりにして、家庭用8ミリ・カメラで映画を作っていたのだが、ある日、中古の16ミリ・カメラを手に入れる。兄弟はそのカメラを使って、夏休みにアメリカの野生動物を撮影して回る計画を立てる。目指すのは、クマが集団で冬眠しているという伝説の洞窟だ。オンボロのトラックに撮影機材を乗せて、ストーファー兄弟3人の野生動物撮影ツアーが始まる。

 プロデューサーのマーク・ストーファーが、自らの体験をもとに作った映画だという。ストーファーはアメリカでも有名な動物ドキュメンタリーの第一人者で、彼の名を冠した「MARK STOUFFER'S WILD AMERICA」は11年も続いた長寿番組。この映画は彼が野生動物ドキュメントの世界に足を踏み入れるまでを、アメリカで人気のアイドル俳優を使って描いているのだが……。でも、これが本当の話とは思えない。エピソードのひとつひとつは、アメリカ南部の伝統的なトール・テール(ホラ話)の匂いがプンプンするぞ。真面目な青春映画だと思っていると、あっと驚くエピソードの連続に、イスの上でのけぞることになる。この映画が奇妙なのは、真面目な青春ドラマが不意に脱線して、トール・テールの世界になってしまうこと。映画の序盤はまったく普通の話なんだけど、3人が旅に出てワニの撮影をするあたりから「いくらなんでもコリャないだろう!」というエピソードが、何の断りもなく次々と登場することになる。

 「地上から消えつつある貴重な野生動物の生態を、ありのままに撮影したい!」という旅のはずなのに、こんなにオバカなエピソードを創作してしまっていいのだろうかという疑問もなくはないのだが、大いに笑わせてもらったので許してしまおう。ワニのエピソードは、ディズニーの『ピーターパン』でフック船長がチクタクワニに追いかけ回される場面と同じぐらい笑えるし、ムースのエピソードもバカバカしい。いきなり爆弾が破裂するのにも驚いた。極めつけはやはり、凶暴なクマに取り囲まれたとき、どうやってその危機を脱するかという話。このバカバカしさは、落語の世界です。

 映画ファンにとって「映画を作る話」というのは、それだけで評価ポイントが高くなってしまうものですが、この映画に関してはあまり関係ないかも。この映画のテーマは「映画作り」ではなく、兄弟や親子の絆にあるからです。十代の少年たちを主人公にしているのに、恋愛やセックスにまつわる話がまったく存在しないのも不思議。ロードムービーではケンカと仲直りの繰り返しを通じて、旅をする者同士の絆が深まっていくものですが、この映画には深刻な仲違いの描写すらない。兄弟が仲良く旅をして、次々に冒険に出会うというだけの話。話の単調さを、荒唐無稽なホラ話が補っているのだ。

 主演のデボン・ソーワ、J・T・トーマス、スコット・ベアストーは、今後注目すべき若手俳優です。

(原題:WILD AMERICA)


ホームページ
ホームページへ