ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア

1999/07/02 映画美学校試写室
病気で余命わずかな男たちが盗んだ車にはギャングの隠した大金が!
ドイツで大ヒットしたアクション・ロードムービー。by K. Hattori


 末期ガンで余命幾ばくもないと医者から宣告されたマーチンとルディ。ルディは生まれてから1度も海を見たことがなかった。「天国ではみんな海の話をするんだ。海を見たことない奴はのけ者になっちまう」。生い立ちも性格もまったく違うふたりの男は、病院の駐車場から車を盗み、まだ見たことのない海を目指して走り出す。その車がギャングのもので、トランクには札束のギッシリつまったスーツケースが入っていたのだが、ふたりはそんなことを知らない。グローブボックスに入っていたピストルを手に、まずはガソリンスタンドで当座の金を調達し、銀行を襲ってさらに資金を手に入れる。ふたりはギャングと警察の双方から追われることになるが、死を目前にしたふたりに恐いものは何もない。

 これが本格的なデビュー作となるトーマス・ヤーンは、ドイツでタクシー運転手をしながら自主映画を作る映画オタクだったとか。そんな彼が、この映画でマーチンを演じているティル・シュヴァイガーに偶然出会い、書きためた脚本の何本かを見せたことがきっかけでこの映画が生まれた。ヤーン監督はシュヴァイガーと一緒に脚本に手を入れ、シュヴァイガーが製作も兼ねることで映画が完成。こうしたエピソードは、『レザボア・ドッグス』を作るときのタランティーノとハーヴェイ・カイテルの関係を思い出させます。出来上がった映画の面白さも、『レザボア・ドッグス』に引けを取らないと思う。

 最近のヨーロッパ映画はハリウッド映画の娯楽性を巧みに取り込みつつ、それでいて少しヒネリのある映画を次々に作りだしている。「ハリウッド映画なんてくだらない」「ハリウッド映画はつまらない」と言っているのは頭の固い日本の映画人(の一部)ぐらいのもので、世界の映画界はもっと柔軟なのです。ハリウッド映画が面白いことを素直に認めて、マネできるところ、参考にできるところはどんどん取り入れている。

 この映画のヤーン監督は、アメリカ映画からの影響を隠そうとしていない。それは映画を観ていればすぐにわかる。ギャングたちの服装は『レザボア・ドッグス』だし、ギャングが経営する売春クラブの名前は「トゥルー・ロマンス」です。主人公たちが逃げ込むのはトウモロコシ畑でなくてはならないし、憧れのスターはプレスリーであり、憧れの車はピンクのキャデラックでなければならない。ギャングの大ボスとして登場したルトガー・ハウアーは、『ブレード・ランナー』のラストシーンを思わせる長台詞で映画を締めくくる。

 最初から最後までクスクス笑って、時にはハラハラし、時には爆笑し、最後にはホロリとさせる。主演のティル・シュヴァイガーは日本では無名ですが、ドイツではすごく人気のある俳優だとか。この映画の格好よさを見ると、それも納得してしまう。最近のドイツ映画では『バンディッツ』が話題になりましたが、僕はそれよりこちらの方が面白いと思う。ドイツで大ヒットした映画です。この監督は、いずれハリウッドに行くでしょう。

(原題:Knockin' on Heaven's Door)


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