HEART
ハート

1999/07/08 映画美学校試写室
他人に移植された心臓を母親が取り戻すサイコ・スリラー。
脚本は『司祭』のジミー・マクガヴァン。by K. Hattori


 心臓移植をめぐるイギリスのスリラー映画。これは恐い。血まみれの服をまとい、血のしたたるバッグを手に歩くひとりの女。彼女はとある墓地の地面を掘り起こし、バッグの中身を埋めようとする。そこに駆けつける警官たち。女は取り押さえられ、警察でそれまでのいきさつを告白する。女の名はマリア・マカードル。彼女の証言に登場するのは、重い心臓病を持つゲイリー、彼の妻テス、テスと不倫関係にある作家アレックス、コカイン中毒のニコラ、そしてマリアの息子ショーンだ……。

 ニコラの無謀運転でショーンが事故死し、その心臓がゲイリーに移植されたのが物語の発端だ。イギリスでも臓器の提供は匿名が原則だが、ゲイリーは新聞記事を検索して自分に移植された心臓の提供者を見つけ出す。ゲイリーは提供者の遺族を訪ねるが、死んだ息子の心臓を持つ男が目の前に現れたことで、息子の死を一度は受け入れたはずのマリアは、大きく心を動かされてしまう。息子は死んだが、その一部は今も生きている。だがその生き方は、マリアが望み、おそらく死んだ息子も望んでいたものとは大きく異なっていた。

 物語はゲイリーと妻テスと作家の三角関係と、ゲイリーとマリアと息子の心臓をめぐるドラマがからみ合い、分かちがたく結びついて行く。死者の心臓は単なる「もの」ではない。それは人間の人格を象徴する何かであり、命そのものの象徴でもある。心臓を提供されたゲイリーと、心臓を提供したショーンに強いシンパシーを感じるし、ショーンを女手ひとつで育て上げたマリアも、息子の心臓を持つゲイリーに強く引きつけられる。マリアにとって、ゲイリーは半分息子のような存在なのだ。彼女は世の母親がそうするように、息子の身代わりであるゲイリーの生活に侵入してくる。ゲイリーも彼女の期待に応えて、「よき息子」であろうとする。だがそれは、心臓移植に医療行為以上の意味を見いだしにくいテスにとって、不気味なストーカー行為に写ってしまうのだ。

 タイトルが『HEART』なので、映画の冒頭でマリアの持っていた紙袋の中に心臓が入っていたことはすぐに察しがつく。おそらくそれは、ゲイリーに移植されたショーンの心臓だろう。なぜそれを、彼女が手に入れることになったのか? この映画は人間の愛憎関係を描いた心理サスペンスであり、心臓入手までのいきさつを描いたミステリーでもある。映画の冒頭からアッと驚くラストシーンまで、一瞬も目が離せません。

 監督はテレビ出身のチャールズ・マクドガルで、これが映画監督デビュー作。滅法面白い脚本を書いたのは、アントニア・バード監督作『司祭』の脚本を書いたジミー・マクガヴァン。このふたりは、テレビ「心理探偵フィッツ」でコンビを組んでいる。ゲイリーを演じるのは『シャロウ・グレイブ』『日陰のふたり』のクリストファー・エクルストン。マリア役は『バタフライ・キス』のサスキア・リーヴス。『ツィン・タウン』のリス・エヴァンスが嫌味な作家を好演している。

(原題:HEART)


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