ドラゴンヒート

1999/07/22 徳間ホール
『初恋』のエリック・コット監督とTHE MEのコラボレーション。
映画というよりミュージック・ビデオだと思う。by K. Hattori


 ウォン・カーウァイがプロデュースした映画『初恋』の監督エリック・コットが、日本のアーティストTHE MEと一緒に作った70分のビデオ作品。これを「映画」と言うべきなのかどうか、ちょっと悩む。これは長めのミュージック・ビデオなのではあるまいか。物語はあるし、台詞もあるのだが、極端な画面の加工や台詞の反復によって、「ストーリーを語る」という枠組みは壊れているように思えるのだ。僕はこんな映画だと知らずに試写会場で前の方に座ってしまったら、画面がチカチカして頭がクラクラしてきた。ある種の特殊効果として画像処理をしているのかと思ったら、このチカチカが映画の最初から最後まで続くのには参った……。

 エリック・コット本人が演じる香港から来た中国人の青年と、THE MEが演じる日本の女の子が友だちになり、一緒に香港経由で北京の天安門広場を目指そうとする話。物語だけ書いてしまうと、これは一種のロードムービーなのだが、映画の印象はおよそそれとかけ離れている。個々の場面は“点”として存在するのだが、それを結びつける“線”の存在感は希薄。点と点を結びつけるのは、点に施された画像処理や時制の混乱による“ブレ”です。乱視の人から見ると(僕は乱視)物の輪郭がブレて二重三重になり、隣接した輪郭同士がくっついて見える。それと同じ効果が、この映画の中にはある。時間は先に飛んだり逆戻りしながらジグザクに進んでいく。

 映画には最初から最後まで一瞬の隙間もなく音楽がかぶさり、全体がひとつのミュージック・クリップのようになっている。使われている曲はTHE MEの歌の場合もあるし、歌のないインストルメンタルの場合もある。この映画の中では音楽が映像の従属物ではなく、映像以上に音楽が自己主張している部分もあるように思えた。これは映像と音楽がぶつかり合って、黒澤明流の言い方をすれば「映像と音楽の掛け算」になるのではなく、映像が主の時は完全に音楽が従、音楽が主になれば映像が完全に従になるという関係だ。映像と音楽の雰囲気は合っているのだが、ふたつはかみ合うことなく別々に存在する。この映画の映像は徹底的に加工されたチカチカクラクラするものだが、音楽はずっとストレートなものだ。僕はこの映画を何度も観る気はないけど、音楽は何度か聴いてもいいと思うなぁ……。

 考えてみればエリック・コット監督の前作『初恋』も、普通の映画の感覚ではつかみきれない奇妙な作品だった。しかしその奇妙さは、今回の『ドラゴンヒート』に比べれば何でもない。僕は今回の映画に面食らってしまい、正直言ってまったく楽しめなかったのだが、THE MEのファンやミュージック・クリップに興味がある人なら、新しい表現形態としてこの映画を受け入れられるかもしれない。くれぐれも、ゲスト出演しているスターたち(アニタ・ユン、カレン・モク、ジャッキー・チュン、イーキン・チェン)の名前につられて、「香港映画の新作だ!」というノリで観に行かないことだ。

(原題:竜火 DRAGON HEAT)


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