わたしは目撃者

1999/07/30 シネカノン試写室
スプラッタ映画の巨匠ダリオ・アルジェントの監督第2作目。
連続殺人の謎を盲目の元記者が解き明かす。by K. Hattori


 「ダリオ・アルジェント鮮血の美学」と題された特集上映で公開される、1970年のダリオ・アルジェント監督作品。この特集上映ではこの作品の他に、アルジェントのデビュー作『歓びの毒牙』や『サスペリア』『サスペリアPART2 完全版』『シャドー』『フェノミナ』『トラウマ/鮮血の叫び』などの監督作、さらにプロデュース作品の『デモンズ』『デモンズ2』などが上映される。アルジェントはスプラッター(流血)映画やスラッシャー(斬殺・刺殺)映画の世界では有名人で、『スクリーム』や『ラスト・サマー』など最近のホラー映画にも多大な影響を与えた巨匠です。こうして代表作が特集上映されるのは嬉しい。僕もなるべく観に行きたいけど、はたして何本観られるかなぁ。(『サスペリア』『サスペリア2』は試写がある予定だけど……。)

 『わたしは目撃者』は、盲目の元記者と幼い姪っ子、新聞社の記者の3人が、連続殺人事件の謎を解明するミステリー映画で、『サスペリア』のようなオカルト要素はないし、犯人も快楽殺人に耽溺しているわけではない。ごくごくまともなミステリー映画で、ストーリー展開だけを見ればヒッチコック映画だと思う。物語の発端は、ある遺伝子研究所への不法侵入事件。犯人は守衛を殴り倒し、建物に侵入したものの、何も盗まずに逃走した。その数日後、侵入犯の正体に感づいた研究員が駅のホームで殺される。この場面を偶然撮影したカメラマンも殺され、オリジナルのプリントとネガも盗まれてしまう。最初の侵入事件と殺人事件を分けて捜査しようとする警察に対し、これが同一犯による事件と考えた主人公たちは独自に調査を開始するのだ。

 この映画の独自性は、ブライアン・デパルマも多大な影響を受けたという一人称カメラの多用と、凄惨な殺しの場面、人間が死ぬ瞬間の映像の挿入にある。駅のホームで走ってくる列車の前に突き落とされた男は、列車の前部に顔面を強く打ち付け、頭部を列車とホームの間に挟まれたままグルグルと身体を回転させる。犯人に細いヒモで絞殺されたカメラマンは、息絶えた後、鋭利な刃物で顔を傷つけられる。やはり犯人に絞殺される女は、口から獣じみた悲鳴と血の混じった泡を吐いて息絶える。こうした「死の瞬間」は、必ず犠牲者の顔のクローズアップとして描かれている。こうした露骨な死の描写と、人間関係の暗部をあからさまに描く一種の覗き趣味が、この映画を独特のものにしている。

 謎解き目的のミステリー映画としても、なかなか面白くできていると思う。登場するキャラクターがうまく描かれていて、中でも盲目の主人公や、記者にネタをリークする警部などは面白い人物だ。主人公たちに調べられる研究所の面々を、もう少し掘り下げると「対決」の面白さが出てきたと思うのだが、この映画がもっぱらそうした人物を「調べられる対象」としてしか描いていないのは残念。記者と仲良くなる研究所長の娘にしても、あと一段踏み込んでいくと面白さ倍増なんだけどね。

(原題:IL GATTO A NOVE CODE)


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