メッセンジャー

1999/08/05 東宝第1試写室
自転車便(メッセンジャー)の仕事にかける若者たちのドラマ。
アラも目立つが十分に面白い映画だ。by K. Hattori


 『私をスキーに連れてって』『彼女が水着にきがえたら』『波の数だけ抱きしめて』に続く、ホイチョイ・ムービー第4弾。過去にスキー、スキューバダイビング、ミニFM局などをテーマにしてきたホイチョイ・ムービーだが、今回は自転車で荷物や書類を運ぶ自転車便(バイシクル・メッセンジャー)がテーマだ。出演は飯島直子、草g剛、矢部浩之、京野ことみ、加山雄三など。流行りものに敏感な情報性、雑誌やカタログから切り抜いてきたようなファッション性、生活のディテールを脚本や美術できちんと作り上げた緻密さなど、ホイチョイ・ムービーは他の日本映画が持ち得ない新しさを今でも持っている。メジャー配給の映画なので、出演者やロケーションなどの面でも、画面から貧乏くささが漂ってこないのがいい。この話を、出演者全員が無名のキャストで作っちゃうと、違う話になっちゃうんだよね。

 輸入アパレルブランドのプレス担当だった主人公の清水尚美は、衣食住のすべてを会社の経費で賄う優雅な毎日。だがある日突然ブランド本社が倒産し、出資商社の安宅物産から資産一切を差し押さえられてしまう。間の悪いことに、運転していた車は自転車便の男と接触事故。相手の男は示談の条件として、自分が退院するまで尚美が自転車便で働くことを要求する……。

 話は面白い。ちゃんとできてる。自転車便というモチーフ以外に新しさは感じないが、それでも台詞のやりとりや伏線など、水準はクリアしている脚本だと思う。特にうまいのは、ほとんどの観客にとって目新しい自転車便という仕事の中身を、物語の中できちんと説明してくれるところ。主人公の尚美が、まったく畑違いの仕事に足を突っ込み、少しずつその魅力のとりこになっていくくだりもスムーズだ。互いに好きなのに好きと言えない男と女の関係も、爽やかでいい感じ。どれもありがちなパターンと言ってしまえばそれまでだけど、その方が客は安心して映画を観られるし、そもそも、ここまでありがちなパターンをきちんと脚本に組み立てた映画なんて、最近の邦画の中では珍しいよ。

 問題は演出や編集の間の悪さ。映画の中で要所となる場面に差し掛かるたびに、演出がいちいち大げさになって上滑りしている。ファッションショーの直前にブランド本社倒産の知らせが届く場面、知人のいる編集部に荷物を届ける場面、なくなった書類を巡るエピソードなど、演出の下手くそさを感じてしまうエピソードは多い。ルーティンのエピソードとなる「俺は何にも言ってないだろ」という台詞やシャンパンのエピソードも、少しこれ見よがしすぎる。こうした繰り返しのエピソードは、繰り返されることで印象が強まるんだから、ひとつひとつはもっとさり気なくていいのです。すごく面白いシーンがいくつもあって、物語がうまく流れているときはすごく楽しいのに、こうした下手な場面でそれが艶消しになるのは残念。しかしこうした傷も致命傷ではない。気軽なデートムービーとしては及第点でしょう。


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