ラスベガスをやっつけろ

1999/08/06 メディアボックス試写室
ハンター・S・トンプソンの原作を奇才テリー・ギリアムが映画化。
ジョニー・デップの怪演に大いに驚け! by K. Hattori


 『未来世紀ブラジル』『バロン』『フィッシャー・キング』『12モンキーズ』などの作品で知られるテリー・ギリアム監督が、アメリカの有名な(悪名高い?)ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンの原作を映画化した。ちなみに原作者トンプソンの著書は日本でも別々の出版社から何冊かが邦訳されているが(「ラスベガスをやっつけろ!」「天国はもう満員」「アメリカン・ドリームの終焉」など)、作者名はすべて「ハンター・S・トムソン」になっている。今回、配給会社はなぜ原作者名を「トンプソン」にしたんだろう。何か明確な意図がない限り、人名表記は変えない方がいいと思うんだけどなぁ……。

 物語は原作者トンプソンの実体験をもとにしたもの。1971年、相棒の弁護士オスカー・ゼタ・アコスタとラスベガスを取材で訪れた体験が、そのままこの映画の主人公ラウル・デュークとドクター・ゴンゾーの冒険譚に反映している。主人公デュークを演じているのはジョニー・デップ。相棒ゴンゾーを演じているのは『ユージュアル・サスペクツ』『エクセス・バゲッジ/シュガーな気持ち』のベニチオ・デル・トロ。この映画の見どころは、ずばりこのふたりの怪演ぶりでしょう。ジョニー・デップの奇妙な身体のウネリ具合といい、帽子の下に隠された衝撃の事実といい、常に手放さないフィルター付きタバコといい、がに股風の歩き方といい、まさにショッキング! デル・トロも役作りのために20キロ近く増量し、だらしなく太った巨漢を熱演している。『ユージュアル・サスペクツ』とはまるで別人です。

 主人公たちが仕事そっちのけで麻薬浸りになり、レンタカーをぶっ壊し、ホテルの部屋をメチャメチャに汚し、薬が切れて我に返ると、目の前の現実から逃避するようにまたドラッグで悪夢の世界に逆戻りするという話。『トレインスポッティング』がすぐ近くにいる傍観者の視点で描いていた麻薬中毒の世界を、中毒者本人の一人称視点で描いたユニークな作品だ。薬で生まれる極彩色の幻覚や、薬が効いている間のねじれた現実感覚を、テリー・ギリアムは見事に描ききってしまった。ギリアム監督は『フィッシャー・キング』でも、アル中の二日酔いや泥酔状態をカメラで再現していた人。今回の映画は、そんなテリー・ギリアム節が全開なのだ。

 1960年代には、ドラッグをやる人間側にある種の大義名分があった。それは「反体制」であり、「意識の拡張」であり、「ラブ&ピース」だった。でも'70年代に入るとそうした大義名分はすべてなくなり、残ったのはグデングデンの麻薬中毒患者だけだった。ジャンキーたちがドラッグの海で漂っている間に、時代だけが彼らを置き去りにしていった。この映画の主人公たちも自分たちが時代遅れであることを悟っている。でも、今さらドラッグ漬けの生活が改められるはずなんてない。主人公たちの無茶な冒険は、ペキンパーの映画に登場する男たちが、滅びに向かって歩いているのに似ている。

(原題:Fear and Loathing in Las Vegas)


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