エル

1999/08/20 TCC試写室
ポルトガルの港町リスボンを舞台にした女性5人の友情物語。
中年こそ人生でもっとも豊かな時期なのです。by K. Hattori


 ポルトガル、フランス、ルクセンブルグ、ベルギー、スイスの合作映画。物語の舞台はポルトガルの首都リスボン。監督もリスボン出身のルイス・ガルバン・テレシュ。日本人にとってポルトガルは、南蛮貿易の相手国として歴史の教科書で知っているぐらいで、あまりなじみの深い国ではないかもしれない。でも、この映画に出てくるリスボンの町はすごく素敵。映画の冒頭とラストに登場する、路面電車と坂道のシーンが印象的です。

 物語は5人の中年女性を主人公にした集団ドラマ。登場人物は、テレビ局でキャスターの仕事をしているリンダ。彼女は同じ局で働くディレクターのジジと恋人同士だが、自分だけの時間を確保するために、午前3時になると彼に帰ってもらっている。夫と別居し、子供ふたりと暮らしているバーバラは、最近原因不明のめまいと体調不良に不安を感じている。大学で文学を教えているエヴァは、夫と死別して幼い子供とふたり暮らし。親友バーバラの息子が自分に想いを寄せていることを知り、戸惑いとときめきに心が揺れ動いている。ヘアサロンを経営しているクロエは、どこか近寄りがたい雰囲気を持つミステリアスな女性。舞台女優のブランカは直情実行型の情熱的な女だが、別居中の娘の素行を心配している。

 数名の登場人物を同格の主人公にして、互いの友情や反発を描いて行くのは、アメリカの青春ドラマなどによくあるパターン。この映画はそうしたスタイルを取りながら、主人公を中年女性にしているところがミソ。人生上り坂で悩み多き青春時代とは違い、ここに登場する人たちは人生の酸いも甘いもかみ分けた分別ある大人たち。でもそうした人生の経験があるからこそ、より人間関係は複雑になってくる。何と言っても、人間は何十年も続けてきた生活パターンを簡単には変えられない。40年とか50年かけて作ってきた自分の性格を疎ましく思っても、それと折り合いを付けて生活していかなければならない。人間関係についても、新たな出会いより、今ある関係性を大事にしたり、守ったりする時期に入っている。この映画の中で、ある者は人生の新たなスタートを切り、ある者は身近な人との関係を修復し、ある者は死を意識するようになる。人生の中で起こることは、すべて中年時代に起こりうる。この映画を観ると、中年こそ人生の中でもっとも豊かな時代に思えてきます。

 1時間38分の映画は、あまりカッチリとまとまった物語を作っていません。5人の人物それぞれのエピソードが、ルーズにからまり合いながら最後にひとつの場所に収束する。でもこのルーズさが、僕にはかえって心地よかった。全部がガッチリとひとつになるのではなく、それぞれの人物が、自分たちの領分を確保した上で互いを大事にしている感じが出ています。相手のプライベートな事情を察しても、分別のある大人ならそれをズケズケ指摘したりしない。ただ黙って見守るしかないことだってある。それが、この映画のルーズさになっているのだと思います。じつに素敵な映画でした。

(原題:elles)


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