無頼・人斬り五郎

1999/08/23 東映第2試写室
渡哲也主演の日活アクション映画を北村一輝主演でリメイク。
Vシネマを16ミリで試写。内容はイマイチ。by K. Hattori


 昭和43年から翌44年にかけて日活で6本製作された渡哲也の『無頼』シリーズを、『皆月』でも好演した北村一輝主演でリメイクした作品。今回の作品のもとになっているのは、シリーズ4作目の『無頼・人斬り五郎』だ。僕はオリジナル版を観ていないのだが、「ぴあシネマクラブ」などを見る限り、話の流れはほぼオリジナル版を踏襲しているようだ。原作は現役ヤクザから作家になった藤田五郎の自伝。脚本はオリジナル版の小澤啓一と池上金男のものをベースに、山口セツと監督の池田敏春が現代風にアレンジしている。僕は北村一輝に注目しているので、ビデオと言えどもかなり期待したのだが、これはちょっと期待はずれだった。

 ドスを握れば誰にも負けない藤田五郎は、ヤクザたちから「人斬り五郎」と恐れられている男。彼は殺人の罪で刑務所に入っていたが5年ぶりに出所し、千葉の小さな町で、死んだ弟分・金田の妹を捜しはじめる。だが彼女が働いていた焼肉屋はすでになく、五郎は店のあった土地の持ち主と地元のヤクザ名振会のトラブルに巻き込まれてしまう。その場は収まったが、名振会の幹部たちは五郎の出現に驚く。名振会の先代会長は、五郎に殺されていたのだ。名振会は五郎に刺客を放つのだが……。

 この映画にはメインのプロットが4つある。第1は五郎と死んだ弟分の妹との話。第2は五郎と名振会の対立。第3は地上げを巡る名振会と地主の対立。第4は五郎と女性新聞記者の話。他にも五郎と名振会幹部の友情や、名振会のチンピラとその情婦の話などが登場するが、これは物語の味付けであって、メインのプロットと言うほどのものではない。この映画で気になるのは、第1のプロットである弟分の妹のエピソードが、何やら中途半端に終わってしまっていることだ。五郎の最初の目的は、弟分から預かった妹の誕生プレゼントを、彼女に手渡すことだった。だが彼女が借金まみれで売春をしていることを知ると、五郎はプレゼントを渡した後も町を去れなくなってしまう。彼女が幸せになるのを見届けるのが、自分の使命だと思ったのだろう。それは構わないのだが、五郎はプレゼントを渡した後、彼女に対して何をしたというのだろうか? 彼は昔なじみの名振会幹部に「町を出ろ」と言われても、弟分の妹がいるという理由で町を出ない。それで結局、彼は何をしていたのか?

 女性記者・磯村由紀のエピソードも、いかにも中途半端なものだった。抗争事件のとばっちりで幼い頃に父を亡くし、ヤクザを憎んで新聞記者になった由紀。彼女はヤクザを憎んでいるのに、ヤクザである五郎に惹かれていく。その葛藤がもっと濃密に描けると、この映画の後半はもっと盛り上がるんだけど……。細川直美はどこまでもお嬢さん臭さが抜けず、理性でヤクザを否定しながらも五郎に心惹かれて行く「女の情念」をまったく表現できていない。斎藤耕一監督の『望郷』では、彼女から女の情念を感じたんだけど、あれは斎藤監督がものすごく上手かったと言うことなのか……。


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