ナンニ・モレッティの
エイプリル

1999/08/24 メディアボックス試写室
イタリアの映画監督が作ったエッセイ風のコメディ映画。
語り口の軽さに感心してしまう。by K. Hattori


 『親愛なる日記』で'94年のカンヌ映画祭最優秀監督賞を受賞した、イタリアの監督ナンニ・モレッティの最新作。映画はモレッティが製作・監督・脚本・主演しており、映画の主人公もナンニ・モレッティという映画監督。監督の私的なエッセイのような作品だが、どこまでが実話でどこからが創作なのか、境界線は意図的に曖昧なままにされている。'93年3月から'97年8月までの出来事をスケッチ風に描いているのだが、テーマになっているのは選挙と子育てと映画作り。映画の冒頭は、イタリアの総選挙で右派政党が圧勝したところから始まり、映画の中盤では左派政党が勝利し、主人公はイタリアの選挙についてのドキュメンタリーを撮り始める。

 この監督の作品を観るのは今回初めてなのだが、僕は観はじめてすぐに好きになってしまった。特に子供関連のエピソードは共感度120%。僕にも子供がいるので、観ていて「ああ、こんなことってあるある」という場面がたくさんあった。主人公が何をやっているときも上の空で、余計なことばかり考えたり、無駄な話をペチャクチャ話しているのも面白い。それでいて、周囲の話にはきちんと付いていくのだから、たぶん本人はすごく頭がいいんでしょうね。でも、やけに口数ばかりが多い。しかも優柔不断でいつも自信のない口振りなのです。タイプはまるで違うけれど、モレッティはイタリア版のウディ・アレンです。モレッティは愛妻家で子煩悩だから、アレン映画の主人公のように恋愛問題で悩まないだけでしょう。この映画は、ウディ・アレンの映画が好きな人なら、かなり気に入ると思う。

 主人公がしばしば映画についてコメントする様子には、映画ファンならニヤニヤ。『ヒート』や『ストレンジ・デイズ』など、出てくる映画のほとんどがアメリカ映画だることも、日本の映画ファンにとってはありがたい。主人公が夜中に『ストレンジ・デイズ』の台詞をつぶやきながら眠れなくなってしまう場面を観て、僕は爆笑してしまいました。(ここは試写室中が笑ってた。)

 政治的な面な話題なども取り上げるなど、かなり辛辣な部分もあるのですが、毒々しかったり生臭かったりしないのは、語り口の軽妙さに理由があるのでしょう。この映画の主人公は、政治にさんざん毒づいてはいますが、政治の場からは遠い場所にいる。彼はテレビの前でギャーギャー騒ぐだけで、特に政治的な発言をしているわけではありません。「選挙についてのドキュメンタリーを作るぞ!」と決心しても、子供が産まれればそちらに夢中になってしまい、撮ったフィルムは編集もせずに放りっぱなし。仕事が行き詰まれば「ミュージカル映画を撮りたい」とぼやき、いざその機会が与えられれば自信を失って逃げてしまう。人間の中にあるいろいろな矛盾、人間の気持ちと実際の行動とのギャップなどが、この映画ではユーモアたっぷりに描かれています。しかもすべて、自分のこととして描かれているのが、じつに正直でいいのです。やっぱりこれはウディ・アレンだ。

(原題:Aprile)


ホームページ
ホームページへ