ペルディータ

1999/08/24 日本ヘラルド映画試写室
ロージー・ペレスが持ち前の乱暴さを存分に発揮した映画。
中盤まではいいが、後半でやや失速。by K. Hattori


 ハリウッドでもっとも騒々しい女優。その名はロージー・ペレス。ダンサーや振付師から女優に転じた彼女は、独特のキーキー声で途切れることなく台詞をしゃべり続け、小柄な身体からエネルギーがあふれ出ている。そんな彼女が今回演じたのは、史上最悪の悪女ペルディータ・ドゥランゴ。もともとはバリー・ギフォードの小説「セイラーとルーラ」の中の脇役で、これを原作としたデビッド・リンチの映画『ワイルド・アット・ハート』ではイザベラ・ロッセリーニが演じていたキャラクターだ。この映画『ペルディータ』は、『ワイルド・アット・ハート』の続編とも言うべき物語。監督は『ビースト/獣の日』のアレックス・デ・ラ・イグレシア。

 メキシコ国境に近い町で、ペルディータはメキシコ人のロメオ・ドロローサと出会う。彼と意気投合した彼女は、ロメオの車でメキシコに入ろうとするが、その後部座席にはシートにくるまった死体と札束が無造作に積んである。ロメオはたった今、銀行強盗の仕事から家に戻る途中なのだ。だがふたりは、難なく国境の検問所を通過する。ロメオは国境のアメリカ側で銀行強盗をし、国境のメキシコ側では、観光客相手にサンテリアという異教の儀式を見せて金を稼いでいた。彼は墓地で新鮮な死体を盗み出してきては、観光客の前でそれを切り刻んでみせるのだ。ペルディータはそれを見てインチキぶりを批判し、「どうせなら生きた人間を切り刻んだ方がいい」と提案する。ふたりは再び国境を越えて、若いアメリカ人カップルを誘拐してくる。同じ頃、マフィアのボスであるサントスから、ロメオにトラック輸送の依頼が来る。中身は化粧品の材料にするトラック一杯の胎児だ。

 暴力的でクレイジーな描写の数々が、残酷を通り越してギャグやユーモアの域にまで達してしまうのは、イグレシア監督ならではの感覚。しかしこの映画で、2時間6分はちょっと長いような気がする。特に後半は明らかにダレてくる。前半では暴力描写のつるべ打ちで観客がフラフラになったのに、後半はやけに普通なのだ。ボクシングの試合で1ラウンドから壮絶な打撃戦になり、3ラウンドあたりで両選手が1度ずつダウン。早い段階でKOシーンが見られるかと観客が期待していると、その後はやけに慎重な試合運びになって、12ラウンドが終わった後で判定にもつれ込んだような映画だ。

 監督はこの映画について、『決して融合することのない二つの異なる人生観の衝突だ』と述べ、ペルディータとロメオのカップルと、誘拐されてきた若いアメリカ人カップルを対比させています。しかし映画の中では、ペルディータやロメオのキャラクターが強烈すぎて、アメリカ人カップルの存在が後退している。ここはもっと毒々しく描いた方がよかったと思う。

 ロメオ役のバビエル・バルデムは、『電話でアモーレ』の主人公や『ライブ・フレッシュ』の刑事役で知られる俳優だが、今回は怪物めいたメキシコ人を熱演。彼の持つ少し知的な雰囲気が、役にピッタリと合ってます。

(原題:PERDITA DURANGO)


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