カスケーダー

1999/08/25 シネカノン試写室
ドイツのスタントマンが作ったフル・アナログ・アクション映画。
ナチスの秘宝を探して元スタントマンが大暴れ。by K. Hattori


 ナチス・ドイツが隠した時価130億円の秘宝「琥珀の部屋」を巡り、美術館の女性学芸員と元スタントマンが大冒険を繰り広げるアクション映画。原案・製作・監督・スタントコーディネーターを兼任しているのは、スタントマンとして長年ドイツ映画界で活躍してきたハーディ・マーティンス。「ドイツ映画じゃスタントマンの活躍の場が少なすぎる!」と思ったのかどうなのか知らないが、この映画は最初から最後までハリウッド映画ばりの壮大なアクションの連続。ハリウッド映画ならCGやデジタル合成で処理するところも、編集テクニックやオプチカル処理で乗り切るというアナログぶりが懐かしい。この映画からは、マーティンス監督のハリウッド映画への対抗意識がひしひしと感じられる。「ハリウッドのアクション映画がスゴイだって? ヘヘンだ。あのぐらい俺たちにだってできるぜ!!」という感じです。

 ナチスの秘宝、秘密の鍵、隠された地図、宝物を守る数々の仕掛けなど、物語の流れはスピルバーグの『レイダース/失われた聖櫃(アーク)』にそっくり。考えてみれば、インディ・ジョーンズ・シリーズも往年のハリウッド活劇映画を現代風に甦らせようとした作品です。そこにはありとあらゆるスタントが集大成されている。先頃日本でもヒットした『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』がインディ・シリーズで生まれたデジタル技術を継承した作品だとすれば、『カスケーダー』はインディ・シリーズのスタント技術を継承しようとした作品です。ただしこの映画を観ると、映画にとって編集や音楽がいかに大切なものか、スピルバーグの活劇センスがいかにずば抜けたものであるかを痛感します。この映画はオープニングの飛行機の場面やそこにかぶさる音楽から、もろにスピルバーグやジョン・ウィリアムスを意識しているのですが、そこで本物にあとわずかで手が届いていない感じが否めない。この「わずか」の差が、いかに映画全体を支配してしまうものか……。

 僕はこの映画に登場するスタント場面を観ていて「うわ〜すごい」とは思ったものの、手に汗握るスリルとサスペンスを味わうことはできなかった。オートバイとカートのカーチェイスにせよ、主人公がトラックの下をくぐるスタントにせよ、「もう少し編集にキレがあれば」とか、「ここでジョン・ウィリアムスの音楽があれば最高なのに!」と思ってしまうのです。

 プレス資料やチラシ、本編の前に上映した予告編などから、どんなにハチャメチャなバカ映画かのかと思っていたら、これが以外にも普通のアクション映画。アメリカならジャン=クロード・ヴァン・ダムやドルフ・ラングレンが出てくるような、日本ではそのままダイレクトビデオになってしまうようなB級作品です。物語に大きな破綻はないし、よくまとまっている。CG中心のアクションに食傷気味の人は、この映画を観れば溜飲が下がるのではないだろうか。予告編の「NO CG! NO STORY! ONLY STANT!!」というのは笑っちゃいます。

(原題:Cascadeur)


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