バーシティ・ブルース

1999/08/31 UIP試写室
高校フットボールチームの選手とコーチの確執を描く青春映画。
「勝利こそ成功への道」という神話の否定。by K. Hattori


 最近のアメリカ映画では、青春映画の「オタク化」がどんどん進んでいて、主人公は映画オタクだったりコンピュータ・マニアだったりすることが多い。学園のアイドルであるフットボールの花形選手やチアリーダーたちは、怨嗟と嘲笑の的になっている。たまにはスポーツ選手が主人公の、古風な学園青春ドラマが観たい……。そう思っているのは僕だけではなかった。

 テキサス州ウェストカナン高校のフットボールチーム「コヨーテズ」は、鬼軍曹タイプの名物コーチ、バド・キルマーに率いられ、過去30年間で22回の地区大会優勝、2回の州大会優勝という輝かしい成績を残していた。チームのスター選手は、クォーターバックのランス・ハーバー。チームは連戦連勝で今年も優勝にまっしぐらの勢いだが、選手は疲労の色が濃い。だが勝利を至上命題としているコーチは、選手の体調などお構いなしに試合を進めてゆく。多少の負傷は痛み止めの注射でごまかせばいい。選手生命や健康より、目の前にある勝利こそが大切なのです。やがて試合中にハーバーが大けがをする事故が発生。「私は何も知らなかった」と言うコーチに、控え選手だったモックスは大反発するが……。

 地元高校の優勝に大きく貢献し、地元では名士になっているバド・キルマーを演じているのは名優ジョン・ボイト。彼に率いられた無敵チームの活躍ぶりと、その裏側にある小さな不満や事故の兆候を描いた導入部は素晴らしい。何ごともなく平穏無事に見える現状に小さな火種がくすぶり、やがてそれが大きな炎となって燃え上がってゆく。これぞドラマ作りのセオリーです。

 この映画は「勝者が栄冠を得る」というアメリカン・ドリームを、少し斜めから眺めてみせる。それが古いタイプのスポーツ映画とは少し違います。勝利に取りつかれた鬼コーチも、彼に反感を覚えながらも息子が花形フットボール選手になることを願うモックスの父親も、「勝者と栄冠」というアメリカン・ドリームに取りつかれた男たちです。しかし主人公モックスは、そうしたステレオタイプな価値観に疑問を持っている。スポーツは確かに素晴らしい。チームメイトと勝ち取った勝利は歓びだ。それは間違いない。でも「勝利」という結果を重視するあまり、スポーツ本来の目的を見失ってはなんにもならない。この映画はそう主張しています。

 試合の場面はすごい迫力です。プロテクターに包まれた巨大な肉体同士がぶつかり合い、猛スピードで走り、ロケットのように飛んで行く。ハイスピード・カメラで撮られた試合の様子は、獲物を狩るサバンナの猛獣のようなどう猛さと、一流ダンサーの舞踏のような優雅さを併せ持っている。この映画は後半で少しドラマの焦点が定まらなくなってきますが、それを試合シーンが補ってあまりあります。まったく惚れ惚れしました。

 これは日本の高校野球を舞台にして翻案できそうな話です。セミプロ化している高校野球チームは、日本にいくつもありますからね。

(原題:VARSITY BLUES)


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