ジーン・セバーグの日記

1999/09/01 アップリンク・ファクトリー
死人が自分の人生を語るという異色のドキュメンタリー映画。
監督はマーク・ラパポート。by K. Hattori


 1979年、謎めいた死をとげた女優ジーン・セバーグについてのドキュメンタリー映画。セバーグは'57年にオットー・プレミンジャー監督の『聖女ジャンヌ』で主演デビュー。同年『悲しみよこんにちは』にも主演し、主人公セシルの短髪は「セシルカット」「セバーグカット」という名で流行した。3本目の主演作がゴダールの長編デビュー作『勝手にしやがれ』('59年)で、セバーグは一躍ヌーヴェル・ヴァーグの女神になる。ジーン・セバーグはこの時21歳。しかし彼女のキャリアはこれが頂点だった。その後30本以上の映画に出演したが、これといった作品はない。女優業のかたわら政治活動にも足を突っ込み、ブラック・パンサーを支持したことからFBIのブラックリストに載った。マスコミの中傷で精神のバランスを崩し、睡眠薬の常用と幾度かの自殺未遂、そして'79年にはパリの路上で車の中の変死体として発見される。死因は自殺と判定された……。

 この映画は、死んでしまったジーン・セバーグ本人が、自分自身の人生を回想するという形式で描かれている。映画の大半は、セバーグ本人の出演作や同時代の別の映画作品の引用から成り立っているが、死んだセバーグ本人を出演させるわけには行かないので、この部分はメアリー・ベス・ハートが演じたフィクション。セバーグ本人が実際に自分の人生をどう考えていたかということは関係なしに、ここでは「セバーグが回想するであろう人生」を作り上げている。これは手法としてはなかなかユニークなものだと思う。普通の人物ドキュメンタリーでは、対象となる人物の家族や友人、仕事関係者、研究者などが、その人物について証言することを積み上げて行く。しかしこの映画は、それとは正反対のことをしているのだ。ここで語られているのは、セバーグという故人の目から見た周辺人物の姿。やり玉に挙げられているのは、ジェーン・フォンダ、ヴァネッサ・レッドグレイブ、オットー・プレミンジャー、ロマン・ギャリ、クリント・イーストウッドなど。こうした人々がいかに残酷な人々であったか、時代の中でどのように変節していったかを、セバーグは容赦なく批判する。

 これは女優の伝記映画というより、映画論であり、フェミニズム論であり、政治論だ。特に大きくクローズアップされているのが、時代の中でフェミニズムや女優の政治活動がどのように勢力を拡大し、挫折していったかという歴史。ジェーン・フォンダはベトナム反戦運動の旗振り役を果たしながら、最終的には体制ベッタリの女になってしまう。レッドグレイブも舞台という自分の居場所を確保する。だがセバーグは、FBIの捏造情報でマスコミから誹謗中傷され、夫からも嘲笑を受けながら孤独に死んでいく。なんだか気の毒だな……。

 この映画の中で面白いのは、「ジャンヌを演じた女優は不幸になる」というジンクス。現在最新のジャンヌ女優はミラ・ジョボビッチ。しかも監督は夫(既に過去形)のリュック・ベッソン。彼女は第2のセバーグか?

(原題:FROM THE JOURNALS OF JEAN SEBERG)


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