ディープ・ブルー

1999/09/02 新宿ミラノ座
研究施設から逃げ出した巨大なサメが人間を次々に食い殺す。
これはレニー・ハーリン監督の最高傑作だ! by K. Hattori


 『ダイ・ハード2』と『クリフハンガー』で注目されながら、『カット・スロート・アイランド』『ロング・キス・グッドナイト』という大金垂れ流しの底抜け映画を作って映画ファンの失笑を買ったフィンランド出身のバカ映画監督、レニー・ハーリンの最新作。今回の映画は、巨大なサメが人間を襲うというアクション・スリラー。『ジョーズ』以来何十本も作られてきた亜流映画の決定版として、レニー・ハーリンがまたしてもやってくれました!(皮肉じゃありません。僕は今回誉めてます。)今回もしっかり「底抜け映画」になってます。(比喩じゃありません。文字通り底が抜けます。)

 この映画には、ありとあらゆる冒険映画のエッセンスがぎっしりと詰まっています。『ジョーズ』に出てきたサメの獰猛さ、『ダイ・ハード』型の密室アドベンチャー、『エイリアン』と同じ孤立状態でのモンスターとの戦い、『タイタニック』や『ポセイドン・アドベンチャー』を彷彿とさせる沈み行く船からの脱出、『ジュラシック・パーク』と同じ現代版フランケンシュタイン・テーマ。登場人物の数も適度に整理されて無駄がないし、それぞれの性格付けも簡潔で効果的なものです。登場する役者たちは一流ぞろい。ストーリーはシンプルで、話の組み立てもよく考えられている。さらに、最新の特撮技術を駆使したサメの描写の大迫力!

 オープニングは、ヨット遊びをする若者たちを巨大なサメが襲うショッキングな場面から始まる。このシークエンスは、元祖サメ映画『ジョーズ』へのオマージュになっています。水の中からサメの視点でヨットや人間たちを眺めるのも同じ。はたして誰が食われてしまうのか? 場面はここから一転して、太平洋上に浮かぶ海洋研究施設アクアティカへと移動する。ここではサメの脳から画期的な新薬を作る研究が進められており、チタン合金の水中ゲージの中に巨大なサメが3匹飼われている。嵐が急接近する中、ある事故がきっかけでこのサメたちが施設の中に侵入し、水浸しになったアクアティカは少しずつ海に沈んで行く……。見せ場はサメが人間たちを次々に食い殺す残虐シーンですが、誰がいつ殺されるかは内緒にしておく方がいいでしょう。

 レニー・ハーリンの前2作は妻ジーナ・デイヴィス主演の大味な映画でしたが、今回はデイヴィスと別れて無駄のないスッキリしたアクション映画を作った。『ジョーズ』と比較されそうな映画ですが、『ジョーズ』のサメが「人間に制御できない大自然」のメタファーだったのに対し、『ディープ・ブルー』のサメは人間が作り上げた不格好な殺戮マシーンと化しています。ここには「自然と人間」というテーマがない。すべてが人工的な空間の中で、人工的に作られた殺戮マシーンが人間を襲ってくるのです。『ジョーズ』を観た後は「海にはサメがいる!」という恐怖が生まれましたが、『ディープ・ブルー』の恐怖はその場限りのもの。どちらが優れているという問題ではなく、目指している方向がまるで違います。

(原題:DEEP BLUE SEA)


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